3話 身の危険<好奇心!?

 少女は俺の「説明してしてくれるよね?」という強い言葉にコックリと頷いて、背筋を伸ばした。
「はい、知りたいと思うのは当然ですから。……まずは自己紹介をさせて頂きます。私は碧野女子高等学校弐年風組、鼓桜華(つづみ・おうか)と言います。それで、私が先日そちらにお邪魔したのはですね……」
「したのは?」
「その――許婚に会うため、です」
「――は? 何だって?」
 思わず訊き返した。
「許婚に会うため、です」
「訊ねてきたのは許婚に会うため? それじゃ何で俺をK.O したのさ?」
 許婚に会うことと、俺をノックアウトしたことに、どんな因果関係があるというんだ。
 当然のことながら、俺は鼓さんの許婚とやらに心当たりは全く、ない!
 ないったら、ない!
「あ、そのですね。最初からお話しますね。ちょっと長くなるかと思いますが、お時間をください」
「うん、それはいいけど」
 時間ならいくらでも。ちゃんと納得できる説明をしてほしい。
 俺の了承を得、鼓さんは小さく頷いてお茶を飲んで喉を潤してから、口を開いた。
「えっとですね。葛西さんの最上原高校に伺う三日ほど前、いきなり母が私にこう言ったんです。『桜華ももう17歳。そろそろ知っておいていいでしょう。実はね、桜華。あなたには許婚がいるのよ。将来はその人と夫婦になりなさい』と」
「いきなり? 何の前触れもなく?」
「はい。さすがにびっくりして母を問い質したら、何でも私が生まれてすぐの頃、親しくしていた方がいらしたそうで、両親が約束したそうなんです。その方にはご子息がいたので『将来、この二人を結婚させよう』と。でもしばらくして、その方はお仕事の都合でご家族と共に引っ越されて……それからは連絡のみのお付き合いだったそうです。でも……」
「約束は生きてたってわけね」
「その通りです」
 はあ、とため息をつく鼓さん。
 ま、ため息をつきたくなる気持ちもわかる。突然『お前には許婚がいるから、そいつと結婚しろ』なんて言われたら、「なんじゃそりゃ!」になるよなあ。
「しかも、『高校を卒業と同時に嫁ぎなさい』なんてことまで言われて。私としては当然、冗談じゃない! となりました」
 そりゃそうだな。二十歳前に結婚って。できちゃった婚のヤンママ、ヤンパパじゃあるまいし。
 鼓さんお母さんもかなりぶっ飛んでるな、うん。
「それで? うちの学校に来たのは、その許婚が最上原に通ってるからってことでいいの?」
 わざわざ来たってことは、そうなんだろうけど。
「そうです。許婚が最上原に通っていると、母から聞きましたので」
 案の定、鼓さんは頷いた。
「でも、それなら何で、俺とその許婚とを間違えたのさ? お母さんから許婚のことは聞いたんでしょ?」
 それがわからなかった。話を聞いて、わざわざ許婚の通う学校まで乗り込んでくるくらいなのだから、特徴くらいは知っているはず。
 写真くらいは持っていてもいいんじゃないだろうか?
 それなのに俺とその人を間違えたということが腑に落ちなかった。
「それはですね――。これを見ていただけますか?」
 そう言って、鼓さんがポケットから取り出して差し出してきたのは、一枚の紙。
「何これ?」
「中を見てもらえますか?」
「?」
 言われるままに折り畳まれた紙を開き――書かれている内容を目にして、俺はあんぐりと口を開け、そして。
「なんじゃ、こりゃあっ!」
 殉職寸前の刑事のような叫び声を上げたのだった。



           

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