15話 鼓桜華、尾行ツアー1
決して駆けず、少し早足程度で鼓さんと前原が歩いていった方へと向かう。
「……どの辺りにいるかな」
「あの大学生の感じからすると、アトラクションにあまり興味なさそうだったもん。ブラブラしてるんじゃない?」
「確かにそうですね。桜華さんが誘わない限り、乗らないような気がします」
綾辻さんも同意する。
だろうなー。あの大学生、アトラクション乗って楽しむ、て感じじゃないし。
ベンチに座ってタバコでも吹かしてるほうが想像しやすい。
「う〜ん。どこだどこだ〜」
「大和川さん、そんなキョロキョロしなくても」
「万が一アトラクションにでも乗られてたら事でしょ」
「そりゃそうだけど」
だからって、そこまで目を皿のようにしなくても……。
って。
「あ、いた」
「え、どこ!?」
「そこの自動販売機。ジュース買ってる」
自動販売機でジュースを買っている鼓さんと前原。つか、金出してんの鼓さんじゃん。
「うわ、サイテー。自分の分くらい出しなさいよ」
大和川さんが、思いっ切り眉をしかめてる。
「これから掛かるお金、全部鼓さんに出させる気かね、あの大学生?」
久保がオイオイといった感じで口にする。
「そうなんじゃない? 自分から出すタイプには見えないわ」
「私もそう思います」
「右に同じ」
意見一致。
うわ、ロクでもねー。
「……動いたわ。追いましょ」
大和川さんに頷いて、俺たちはゆっくりと後を追った。
……で、追ったわけだけど。
「うわ、また唾吐いた!」
「何だ、あの周りを威嚇しまくってる歩き方と目つきは?」
「……ちょっと、今ぶつかった人を、桜華にわからないように突き飛ばしたわよ?」
あ〜あ、その人怯えた顔して逃げてったぞ。
「怖いです……」
俺たち四人は、顔を見合わせた。
「な、なあ、後を付ければ付けるだけ、前原の酷さが目に入ってくるんだけど……」
「そ、そうよねえ……。でもそれに桜華がまるで気づいていないってのが問題よ」
「何で気づかないんだろう? 鼓さん、そういうの、平気な人?」
「そんなはずありません! 桜華さんは、とっても正義感の強い人ですからっ」
俺、大和川さん、久保、綾辻さんがそれぞれ意見を述べる。
「綾辻さんの言う通りだとして。じゃあ、何で鼓さん、気づいていないんだ?」
「……恋は盲目? でも、限度ってものがあるわ」
「あいつに恋とか、想像したくないんだけど」
やめてくれ。何だか悲しくなる。
清純な乙女が悪い男の毒牙にかかっているようで。
「私だって想像したくないけどね。……って、志乃、あんたさっきから何やってんの?」
大和川さんが綾辻さんを見て怪訝な顔をしたので、俺も見てみると。
何やらメモ張に細々と書き込んでいた。
「え? ああ、あの人の行動を書いてるんですよ。何か役に立つかも知れないから……」
「役に立つって……。まあ、桜華の目を覚まさせる手の一つにはなるかもね。あら、食堂に入った」
「ホントだ。そっか、そろそろ飯食ってもいい時間だね。俺たちも食っておく?」
腕時計は11時35分を差している。確かに早めの昼飯としてはいい時間だ。
「私たちも食堂に入るの? ……どうみても尾行してたのバレバレでしょ。ここで待とうよ」
「しょうがないね。少し戻れば売店があったな、そこで適当に買ってこようか。たこ焼きとかそういうのしかなかったはずだけど」
「それでいいわ。はいお金、これで適当に買ってきて」
サッと大和川さんが五千円札を出して俺に押し付けてきた。
「え……。自分で出すよ?」
「いいから。買ってきてもらう運賃と相殺ってことで」
俺は久保を顔を見合わせ――肩をすくめた。本人がそう言うなら仕方ない。
「わかった。買ってくるよ。久保、お前も付き合え」
「はいはい」
「よろしくー」
「お願いします。あ、飲み物はあれば、ウーロン茶を」
「はいよー」
俺たちは来た道を駆け足で戻り、売店に急いだ。
……今日は完全に鼓さん尾行ツアーだな。