16話 鼓桜華、尾行ツアー2

 売店でたこ焼きやらフライドポテトやらフランクフルトにアメリカンドッグなどと飲み物を適当に買い込んで、急いで戻る。
 そして四人で食堂から死角になったところで昼食に。
「意外とイケるわね、こういうのも」
「思ったより美味しいですね」
「こういうところで食べると意外と美味く感じるよな」
「そうそう。あ、葛西、たこ焼きくれ」
「ほい」
「サンキュー」
 食堂を注視しながら、パクパクと食べていく。
 ――ほとんど食べ終えたところで、携帯が鳴った。
「あ、堺先輩」
『よ、葛西。そっちはどうよ?』
「尾行を続行中です。二人は今食堂に」
『食堂? どっちの? メリーゴーランドの近く? それとミラーハウスの方か?』
「メリーゴーランドの方ですけど」
 食堂はメリーゴーランドの近くとミラーハウスの近くにある二つ。
『わかった。ちょっと待ってろ』
「……は? 待ってろって、何が?」
 訊いたときには、電話は切れていた。
「どうしたの?」
「二人が食堂にいるって言ったら、堺先輩がちょっと待ってろって……。なんだ、これ?」
 まさか、ここに来る気か? ありうるけど……でも堺先輩だって、デートの真っ最中でしょうに。
「来る気かなあ? でも、あの人だって、相模さんと進展しなきゃ行けないのにね?」
「だよなあ」
 そこへ、ポンと肩を叩かれた。
「よ、待たせた」
「わ、先輩! もう来た。つーか、ホントに来た!」
「来ちゃ悪いかよ」
「そういうわけじゃないですけどね」
 デートは? 先輩、相模さんとのデートは?
 そう言おうとして、相模さんへと視線をずらし――二の句が告げなかった。
 なぜなら――仲良く手を繋いでいたからだ!
 何、この超展開!? 文字通り手が早いっすね、先輩!?
「ごめんね、みんな。私も桜華ちゃんが気になっちゃって。混ぜてもらえないかな?」
 相模先輩が若干申し訳なさそうに言ってくる。この人はこの人で、鼓さんを心配してくれているんだろう。
「そっちがいいなら俺は構いませんけど」
「私もいいけど?」
「いいんじゃないか」
「お手伝いして頂けるなら大歓迎です」
 四者四様に承認。
「じゃあ決まり。それで、今二人は食堂なのよね。……うん、堺君、私たちが行こう。私たちなら偶然を装えるし。様子を見てくる」
 相模先輩は堺先輩を誘い、「任せて」と食堂へと向かっていった。
「あの二人、手を繋ぐまでになってるなんて。元々気があったんだね、お互い」
「だろうな。ちょっと先輩たちにお任せしようか」
「うん。私たちはちょっと今後の計画立てよう」
「おけ」
 食堂は先輩二人に委ね、俺たちは計画を再構成。
 ずっと四人でいるのは怪しまれるかも知れないとのことで、バラバラになった時の為に連絡先を交換し合い。
 前原の毒牙に掛からないように、鼓さんを守る(既に前原が紳士的かもしれないというのは宇宙の彼方)のが大前提で一致。
「いくら何でも、この遊園地で変な真似はしないと思うけどね。念のためってことで」
「だな。このまま大人しく終わってくれれば――おっと、電話」
 先輩からだったので急いで受ける。
『葛西か? こっちも飯食いながら桜ちゃんを見てるけど。――駄目だ、ありゃ』
「駄目? 何がです?」
「前原っつったっけ。あの大学生。テーブルから一歩も動きやしない。自分の分も桜ちゃんに持ってこさせてる。金もあの感じからすれば桜ちゃんが払ったろうな』
「やっぱりか」
 そうじゃないかと予想していたが、見事に当たってしまったらしい。
 何で嫌な予感だけ当たるんだ、こういう時って。
『桜ちゃんは古風だから、女は尽くして当然みたいな考え持ってるかもしれないけどさぁ。あいつ何様だよ、偉そうに踏ん反り返ってるだけで何もしてねえし』
「…………」
『仮に俺らが桜ちゃんたちを知らなかったとしても、彼女たち見ていい気はしない。……はっきり言って、あのカップル――というか、あの前原の野郎を潰したい』
「同感ですよ先輩。だからこそ、悪いことにならないように尾行してるんですけどね」
『わかってる。これ以上構うのはまずいから、俺らは動けないけど頼んだぞ?』
「任せてください」
 力強く言い切り、俺は電話を切った。
「……なんだって?」
「悪いほうでの予想通りだと。持ってくるのも金払うのも全部鼓さん。前原のヤロー、一歩も動かないってよ」
「やっぱりね。……はぁ、桜華もあんな奴の何がいいのやら」
 ため息をつく大和川さん。
 親友だけに、よりわからないんだろう、前原のどこに惹かれているのかが。
 俺もわからないけどね、全くもって。
「……あ、出てきましたよ!?」
 綾辻さんの声に振り向くと、二人が食堂から出てくるところだった。
「じゃ、続けましょうか」
「ああ」
 鼓桜華尾行ツアー、続行だ。


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