Simple Life
遠矢君の憂鬱
3話
〜Another view〜
お決まりのパターンと化した、司先輩、円先輩たちとの昼食。
談笑しながら(司先輩のセクハラ発言を喰らいながら)食べていると、円先輩がふと思いついたように言った。
「そういやさ、なっち。前に五行のこと訊いてたよね?」
「はい、そうですね。でも、それが何か?」
僕があの五行先輩について訊いたのはそれなりに前だ。それが何で今また五行先輩の話題に触れるんだろう?
「ううん。ちょっとなっちが五行に興味示してたみたいだからさ」
「何かあったんですか?」
また問題起こしたんだろうか。
あの人のことだから、やりかねないけど。
すると円先輩は「違う違う」と手を振った。
「そうじゃなくてさ。なっち、五行に彼女が出来たって話は聞いてる?」
「ええ、先輩に彼女!?」
「五行君に彼女!?」
「――――!」
さすがにそれは初耳だ。
司先輩も同様らしく目を見開いてるし、今まで興味なさそうにしていた一夜ですら、珍しく箸の動きが止まってる。
「それって本当なんですか?」
円先輩が嘘を言うとは思えないけど、一応訊ねてみる。
「嘘は言わないって。ま、あたしが実際に見たわけじゃなくて、バスケ部の後輩が見たらしいんだけどね」
そのまま円先輩は続けた。
「なんでもさ、ショッピングモールに出掛けた際にね、五行が歩いて行くのを見たんだってさ。女の子連れで」
「たまたま一緒だった、とかの可能性はないの?」
司先輩が疑問を投げかけるけど、円先輩はあっさりと首を振った。
「仲良く手を繋いでたっていうから、たまたまとは考えにくいんじゃない」
「う〜ん。確かにそれだと彼女と来てたとしか考えられないわね」
「でしょ?」
「で、それってどんな人だったんですか? やっぱり、聖嶺の生徒ですか?」
女の子を連れて、手を繋いでいたという五行先輩。となると、次の興味は当然のことながら、その女の子だ。あの人と付き合える女性ってどんな人なんだろう。
「うーんとね、後輩も女の子のほうはしっかりとは見えなかったらしいんだよね。丁度、五行を挟んで見たらしいからさ」
円先輩がちょっと困った表情で言うのを聞いて、少なからず僕はがっかりした。
野次馬根性といえばそれまでだけど、やっぱり気になるんだよなあ。
「うん。でも、後ろ姿はしっかり見たって言ってた。ええとね。すらっとした長身で、腰まである長い黒髪の子だって。雰囲気からすると美人じゃないかなーだって」
ふむ。
すらっとした長身で、腰まである長い黒髪の女性か。後ろ姿を想像すると、何だか大人っぽい感じの人だな、多分。
「ね、一夜、一夜はどう……」
思う? と訊こうとして――思わずギョッとした。
箸を持ったまま、茫然自失――までは行かないかもだけど、固まってる。
全然喋らないからどうしたのかとは思っていたけど、いくら何でも固まってるとは思わなかったよ、一夜。
「ちょっと一夜、どうしたの? 何でボー然と固まってんのさ?」
「い、いや、何でもあらへん」
「何でもないって感じじゃないけど」
「気にしなくて、ええ」
一夜はそれだけ言うと、後は無言のまま残った食事を平らげた。
(……一夜?)
どうしたんだろう。
僕は、内心首を傾げていた。
放課後、僕は帰り支度をしている一夜に、単刀直入に訊くことにした。
あれこれ考えていてもしょうがないし、そもそも難しいことは苦手だからね。
「ねえ一夜」
「なんや、那智」
「何かあったの? 昼食くらいから、なんか変だよ」
「……別に何もあらへん。考え過ぎや」
一瞬手を止めたけど、一夜はそのまま帰り支度を続行した。
相変わらず素っ気ない。……でもなっちゃん、めげない!
「考え過ぎでいいからさ。もう一度訊くよ、一夜。――何かあったよね?」
「それ、質問とちゃうやろ。詰問や」
一夜が呆れ声を出す。
「あ、そう?」
「全く。……話せばええんやろ」
苦笑とともに、一夜がようやく話す気になってくれた。
「うん、そうそう。話して話して」
僕も手早く帰り支度を終え、のんびりと一夜と教室を出た。