Simple Party’s Life
7話

〜飛鳥井明日香〜

 文化祭も終え、一息ついている雰囲気の中、私は廊下を歩いていた。
 ――文化祭自体は成功と言えるだろう。来客も相当数来たし、3年特進クラスの店も大盛況だったし。
 ……和服を着たのはちょっと照れたけれども。
 何より、匠さんと一日楽しめたのは嬉しかった。初日はずっと仕事だったけど、その分、二日目は朝から終わりまで一緒に過ごせたから、自分的にも大満足だ。
 ただ、ついにクラスには匠さんとお付き合いをしていることがバレてしまったけれど、いずれは知られることだったのだから、どうということもないだろう。
 ――質問攻めに遭いそうなのは確実だけれど。
「それは仕方ないでしょうね」
 恋愛に興味津々なのは当たり前だと思うし。
 そんなことを考えながら歩いていると――。
「うわああ!」
 声が上から降ってきた。
「え?」
 思わず視線を上へ向けると――何故か人が降ってきた。
「――!?」
 反射的に顔を手で庇うけど、それだけで精一杯。
 私はそのまま。
 降ってきた人の勢いに押され、思いっ切り床に尻餅をついた。
「イテテテ」
「痛い……」
 痛みを堪えて顔を上げると、そこには見知った顔が。
 男性にしては随分と可愛らしい、整った顔。
 一夜さんの唯一の親友である、千秋那智君だった。
「あなた……。高校生にもなって、階段の飛び降り? もう少し大人になりなさい。他の人に迷惑よ」
「ああ、すみません……。って、そ、そうですけど! 好きで飛び降りたわけじゃないですから」
 千秋君はすぐに謝ってきたが、そんなことを言ってきた。
「? じゃあ、何故?」
「……突き落とされたんですよ。どこかの生徒に」
「突き落とされた!? 何故そんなこと――」
 になるの? と訊こうとして、すぐその原因に思い当たった。
 ――先日の、あの騒動。
 片瀬さんのカミングアウト。あれが原因だろう。
「文化祭での、司先輩とのことが原因かと」
 千秋君の返答は、予想通りのものだった。
「……そう。それで、そのことが気に食わない生徒が強硬手段に出ているというわけね」
「はい、そうだと思います」
「ふう。あなたも片瀬さんも大変ね」
「はは、まあ……」
 千秋君は曖昧に笑い、立ち上がった。
 私も立ち上がろうとして――左足首に激痛が走った。
「――痛っ!」
 ガクンと膝が折れ、へたり込んでしまった。
「飛鳥井先輩!? 大丈夫ですか?」
 千秋君が慌てて声をかけてくれるけど、私は首を横に振った。
「大丈夫、と言いたいところだけど……。少し無理そうね。あなたはどこも怪我はしていない?」
「ええ、特には……。あちこち痛いですけど」
「でしょうね。……保健室に行くしかないわね……」
 だけど、この足では自分で行けそうにない。
「あ、先輩、なんだったら僕が付き添い――」
「千秋君が? ふふ、ありがとう。でもいいわ。今、呼ぶから」
 千秋君には悪いけど、彼に私を支えられるとは思えないし。
「そうですか?」
「ええ」
 私は携帯を取り出し、電話をかけた。相手はもちろん――。
『もしもし』
「あ、私です。ちょっと困ったことになって。今すぐに来てくれない?」
『どこに?』
「場所は――」
 状況と場所を説明すると、すぐに行くと言い、電話は切れた。
「これでよし、と。すぐに彼が来てくれるから、大丈夫よ、千秋君」
「はあ。あの、電話したのって――」
「……一夜さんではないわ」
「あ、そうですか」
 千秋君の表情が拍子抜けしたものになった。
 恐らく、一夜さんに連絡したと思ったのだろう。確かにそれも選択肢にはあったけど、それよりも、私には優先的に連絡を取る人がいるのだから。
「じゃあ、誰に――」
「すぐにわかるわ」
 待つことしばし。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」
 相変わらず訳のわからないことを言いながら、待ち人が姿を見せた。
「はいはい。この状況を見てからそういうことはしてくださいね」
「冷静にスルーかよ。それはそれで寂しいが、仕方がない。で、どんな感じよ?」
 大切な待ち人――匠さんに私は左足首を示した。
「こんな感じです。痛くて立てないし、歩けません」
 匠さんはしゃがみこむと足首に軽く触れた。
「……少し熱持ってるな。捻挫だろう。取り敢えず保健室行くか」
「はい。それで、連れていってほしいんですが」
「わかってるよ。それじゃ、行きますか。――よっと」
「え?」
 匠さんの行動に、私の思考は固まった。
 何故なら――匠さんは、私を抱き上げたから。
 いわゆる――『お姫様抱っこ』
「え!? 匠さん、ま、待って!」
「どうかしたか?」
「『どうかしたか?』じゃないです! なんなの、これは! 恥ずかしいじゃないですか!」
 こんな格好、はっきり言って晒し物だ。恥ずかしいにも程がある。
「……じゃあ、背負っていこうか? 明日香、お前歩くどころか立つこともできないんだろ? どうやって保健室まで行く気だよ」
「う。そ、それは……」
「そういうことだ。諦めろ」
 面白そうに笑う匠さんを見て、私は諦めのため息をついた。
「わかりました。保健室に連れていってください」
「おっけ」
 同時に匠さんが歩き出したので、慌てて匠さんの首に手を回してしがみつく。
 ……周りからは抱き付いているようにしか見えないだろうけど。
「もう。もっと静かに歩いて」
「へいへい。……と、千秋」
「え、あ、はい?」
 千秋君、自分が話しかけられるとは思ってなかったのだろう。、目をパチクリ。
「お前も保健室に来い。怪我はしてないみたいだけど、念のため。後になって痛みだすこともあるしな」
「わかりました」
 素直に頷き、千秋君は匠さんの後ろを付いてきた。
 それにしても。
 ……やっぱりこれは、恥ずかしい。


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