Simple Party’s Life
8話

〜五行匠〜

 明日香を抱きかかえながら保健室へ。
 その間中、明日香はずっと顔を伏せて周りから見えないようにしていた。
 ……よほどこの格好が恥ずかしいらしい。
「センセー。いますか、怪我人と怪我人疑惑と健康体の生徒が来ましたよー」
「……訳のわからないことを言わないの」
「ヘイヘイ。……て、いないな」
 保健室へ入るが、養護教諭の姿がない。席を外しているらしい。
「しょうがない。勝手にやらせてもらおう。……よいしょっと」
 明日香を丸椅子に座らせ、薬品棚へ。
「明日香、今手当てするから待ってろ。千秋も座ってな」
「ええ」
「はい」
 千秋も座るのを見つつ、棚から包帯とかを取り出し明日香の元へ。
「さて、と。明日香」
「はい」
「取り敢えず……脱げ」
「――え?」
 俺の言葉に明日香はポカン、となった。
 何でそんな顔? 疑問に思いつつ、俺はもう一度言った。
「脱げ、と言ったの。ほら、早く脱――痛っ」
 バシン、といきなり明日香にはたかれた。
「何しやがる! いきなり叩くな!」
「『叩くな!』じゃないです! いきなり脱げだなんて、何を考えているんですか、あなたは! 千秋君だっているのに!」
 憤然とした感じで、明日香が俺を思い切り睨んできた。
「いや、だから、脱いで――」
 もらわないと手当てができない、と言いかけて、気がついた。
「まだ言いますか!」
「待て明日香。お前は勘違いをしてる。俺が脱げと言ったのは靴下だ」
「そうです、あなたは私に靴下を脱げだなんて恥ずかしいことを――え、靴下?」
 明日香の動きが止まった。
「そう、靴下。素足になってくれなきゃ湿布も貼れないし包帯も巻けないんだが」
「…………」
 俺の言ったことを理解したのか、段々と顔が赤くなっていく。
 ようやく理解したか。
 しかしあれだね、『千秋君だっているのに』と言ってたけど、千秋の奴がいなかったらお前は脱いだんかい。
「理解したならとっとと脱げ」
「それならそうと早く言ってください!」
 怒られた。
 何でだよ。

 すらりとした明日香の素足にそっと触れる。
「ん……」
「痛むか?」
「少し……」
「完全に捻挫だな。腫れて踝がなくなってるぞ」
 右足と左足の太さの違いが凄いことになってるし、熱も持ってる。
 こりゃ歩けんわ。
「とにかく手当てをしておこう。……湿布湿布と」
 湿布を患部に貼り、包帯で湿布と足首を固定。
「――どうだ?」
「あ……楽になった感じがします。ありがとう、匠さん」
「なんのなんの。……と」
 俺は明日香に待つように言い、千秋の所へ。
「で、千秋。痛むところはあるか?」
「いえ……。ああ、左手首がちょっと痛むかな?」
「どれ……」
 千秋に左手首を動かすように言うと、僅かに顔をしかめた。
「軽く捻ったかな。ちょいと待ち」
 俺は千秋にも手早く湿布と包帯で手当てを慣行。
「これでよし、と。手当ても終えたし、帰るか。明日香、お前は――」
 どうやって帰る? と言おうとしたとき、勢いよく扉が開かれた。
「那智君! 怪我したってホント!?」
 ブラウンの髪をした、学園一の(千秋限定)暴走美少女――片瀬司だった。
「司先輩!?」
「片瀬か」
「片瀬さん」
 片瀬は俺と明日香には目もくれず、一直線に千秋のもとへ。
「那智君、怪我して保健室に行ったって聞いたから……大丈夫だった?」
「ええ、僕は大丈夫ですよ。飛鳥井先輩の方が」
「え? ――あ!?」
 くるりと振り向き――目を丸くする。
 今気が付いた、というふうな片瀬。
 冗談抜きに気が付いてなかったらしい。
「遅せぇよ、気づくのが」
 いくら愛しの千秋が目の前に入るとはいえな。
「こんにちは、片瀬さん。こっちの怪我も大丈夫だから」
 明日香は軽く微笑んで頷いてみせた。
「飛鳥井さんに……五行君」
「おうよ。ま、こっちは気にしなくていいから。手当ても終えたし、帰って平気だぞー」
 千秋には今日は様子見して、痛みが引かないようであれば医者に行くように伝えておいた。
 見たところちょこっと捻っただけみたいだし。
「じゃ……失礼します、五行先輩、飛鳥井先輩」
「あばよ。……後は片瀬にもう一度見てもらって手当てしてもらいな」
 ニヤリとすると、千秋は赤くなり、片瀬は……ニコッと微笑んだ。
 おお、動じない。からかったつもりだったのに。ちぇ。
「さようなら、お大事にね」
「ふたりとも、ありがとう」
 片瀬も俺たちに礼を言うと、千秋と仲良く帰っていった。
 片瀬が千秋を引っ張りながら、だが。
 二人の姿が消えてから、俺は明日香に振り返った。
「さて。俺らも帰ろうか、お姫様?」
 ニヤリと笑ったが、なぜか明日香は顔が若干引き攣っていた。
 ……何故?


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