Simple Party’s Life
5話

〜五行匠〜

 美玖ちゃんを見つつ、俺は思案した。
 本来なら、迷子センターにでもこの子を連れていくべきなのはわかってるんだけど。
『じゃ、俺たちと一緒にママを探そうか?』
『美玖はパパと遊びたい! ママがパパと遊んでいなさいって言ったもん! パパと遊ぶ、遊ぶのー!』
 と言って聞かず。
 俺は美玖ちゃんのパパじゃないと何度言っても『パパだよ。だってママがそう言ってたもん』と譲らない。
 ……どうすりゃいいのさ?
 困り果てて明日香を見ると、苦笑して、美玖ちゃんに目線を合わせるようにしゃがみこんだ。
「そう、ママが匠さんを『パパよ』って言ったのね?」
「うん!」
「そう……。それじゃあ、三人で遊びましょうか?」
「ホント!?」
「ええ、もちろん」
 明日香の誘いに、美玖ちゃんはにっこり笑顔。
 え、でも、ちょっと待て!?
 何言ってんだと明日香に顔を向けると、微苦笑してみせた。
「仕方ないでしょう? この子を放っておくわけには行かないし、迷子センターには絶対嫌がるでしょうし。私たちが連れながら、彼女のお母さんを捜したほうがいいです」
「そりゃあ、そうかもだが」
「でしょう? 大丈夫ですよ、きっと。すぐに見つかります。……それで、もし見つからなければ、その時に迷子センターに行きましょう」
 立ち上がった明日香は、美玖ちゃんと手を繋いでいた。
 仲良く手を繋ぐ二人は、歳の離れた姉妹みたく見えた。
 ――仕方ないか。
 明日香の言うことは筋が通ってるし、無理に迷子センターに連れていっても、大泣きとかされて状況が悪化しかねん。
「匠さん、行きましょう」
「わかった。美玖ちゃん、行こうか」
「うん! あ、ねえ、お姉ちゃんは、パパのお友達?」
「ええ。とっても仲のいいお友達。一番の仲良しね」
 無邪気な美玖ちゃんの質問に、言葉を選びつつ、明日香は答えていた。
 友達、ねえ……。
 何とも都合のいい言葉に苦笑し、俺は二人の後ろを歩いていった。

 園内を歩きながら、俺と明日香は美玖ちゃんの母親についての情報を集めていた。
『ママとはどこから来たの? お名前は?』
『髪は長い? それとも短い?』
『服はどんな感じかな? スカート? ズボンかな?』
 そんな感じで集めた結果。
 母親の名前は小林琴美。髪は肩くらいまでの長さで、茶髪。
 服装はチュニックに七分丈のパンツらしい。
 荷物はショルダーバッグ一つ。
 ここへは電車で来たけど、駅名とかはわからない、と。それは仕方ないよな、まだ七歳だし。
 よし、ここまでわかれば大分楽になるかな。
 ――後は、遊びながら母親を捜すだけだ。

 コーヒーカップに乗って、前後に大きく揺れる船のアトラクションに乗って、飛行機を模したやつに乗って。お化け屋敷に行こうとしたら、二人から大反対を受けて断念して。
 メリーゴーランドに三人で乗って、一緒にご飯を食べて、ゴーカートに乗って最後に観覧車に乗って。
 園内は何週もしたけど、母親は見つからなかった。
 俺と明日香は顔を見合わせてやれやれと首を振った。
 簡単に見つかるかと思っていたけど、どうやら甘かったらしい。
 仕方ない、迷子センターへ行こう。
「美玖ちゃん。お母さん見つからないね。仕方ないから、呼び出してもらおう」
「え〜。でも、ママはパパと一緒にいればいいって……」
 だが、美玖ちゃんは不満顔で唇を尖らせた。
「うん、そうだね。でも、美玖ちゃんだってお母さんと会いたいだろ? だから、呼んでもらうんだよ。もちろん、俺たちも一緒に行くから」
「ホント?」
「ええ、もちろん。お母さんと会えるまで一緒にいますからね?」
「わかった。なら行く!」
 明日香の言葉に一転して機嫌を直した美玖ちゃんは、その手をギュッと握った。
「行きましょ、匠さん」
「ああ」

 迷子センターに着いた俺たちは早速職員さんに事情を説明。
 対応してくれたのは50絡みのおっさんだったけど、話を聞くや呆れ顔になった。
「なんだい、それは。呆れたな、そんな母親がいるのか。君たちも災難だったなあ。高校生だってのに、母親と父親になっちゃって」
「はは。まあ、普通できない経験ですね」
「そうだろう、そうだろう。……いや、未来の予行演習でいいかもな。ワハハ!」
「おい、こら待て、おっさん」
 訳わからんこと言って、一人で悦に入るなよ。
 明日香もそう思うだろ……って、おい。
「何赤くなってる」
「だ、だって……」
 頬を染め、恥ずかしげにに俯く明日香。おっさんの冗談を間に受けてどうする!?
 全く……。俺は肩をすくめて椅子に座り、明日香も俺の隣に。
 美玖ちゃんは奥で別の職員さんと話をしている。
 そのまま、そこで遊ばせるつもりのようだ。
 おっさんはすぐに呼び出しをしてくれたけど、果たしていつ来ることやら。


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