Simple Party’s Life 
4話

〜五行匠〜

 遅刻騒動の賠償としての、遊園地デート。
 二人でぶらつきながら、さ、楽しもうか、というときにそれは起こった。
 ふと誰かに呼ばれたような気がして、俺は振り返った。
 辺りを見回すも、誰もいない。
 気のせいか?
「? どうかしたの、匠さん?」
「いや、誰かに呼ばれたような気がしてな。……気のせいみたい」
 明日香に肩をすくめてみせると、首を傾げられた。
「空耳? でも、そうね、誰もいないし――!?」
 周りを見回していた明日香が、ある一点を見つめたまま、固まった。
「明日香? おい、どうかしたのか」
「あ、あれ……。匠さんの左後ろ……」
「は? 左後ろ?」
 言われる方を見て――俺も固まった。
「えへへ〜」
 俺の服の裾を掴んでいる一人の女の子。
「だ、誰だ、この子?」
「さ、さあ……?」
 一体いつから掴まってた?
 歳は6、7歳だろうか。その子が、笑いながら俺に向かって。
「パパ♪」
 と、のたまわりました。
「…………」
「…………」
「パパぁ!?」
 俺はその発言にあんぐりと口をあけ。
 明日香はただ呆然としていた。

 その十数秒後、復活した明日香に俺はトコトン責められていた。
「匠さん!? パパってどういうこと!?」
「俺が知るか!」
「知るかって無責任な! 私という者がありながら、どこか他の女性と! 子供まで作って!」
「待て、コラア! そんなことするかああ!」
 話が飛躍し過ぎだ! まずは落ち着け!
 だが、明日香はますますヒートアップ。俺の言うことなど耳に入ってない。
「一体いつ!? いつ浮気したんですか!? それとも私が浮気相手……!?」
「だから違うって! 俺はお前だけ! 疑われるようなことしてねえよ!」
「だ、だって、パパって言ってるじゃないですか、この子!」
 若干涙声にまでなってきた明日香。うわ、まずい。早く誤解とかないと。
「明日香、いいから、落ち着け。絶対に俺はお前を裏切ったりしてない。……俺の話を聞け」
「…………」
 無言で俺を見上げる明日香。ああ、思いっ切り疑いの目!
「いいか、明日香。この子……いくつに見える?」
「え? ……6、7歳くらいでしょうか?」
「だろうな。なあ、お嬢ちゃん。君、今何歳?」
 訊ねると、女の子は指折り数え初め――ニコッと笑った。
「7歳!」
「だ、そうだ。ということはあれか? 俺は10歳のときにこの子を作ったことになるぞ。……無理があんだろ」
 俺はどんだけ早熟よ。
 自慢じゃないがな、毛が生えたのは中学――いや、何でもないです。この話はやめとこう。
「あ……そ、そうよね、いくら何でも10歳は子供作れないですよね……」
 ようやく理解出来たのか、明日香は深い息を吐いた。
 そうだそうだ。俺はまだどうて……何でもないです、はい。
「ようやくわかってくれたか。これは絶対、誰かの悪戯――」
 俺は少女に向かってしゃがみ込み、訊ねた。
「なあ、嬢ちゃん。君のママは? 君のママが俺をパパって言ったの?」
「うん、そうだよ。ここに来たらね、ママがパパを指差してね、『あの人が美玖のパパよ』って。『ママは少し用事があるから、パパと一緒に遊んでてね』って言われたの〜」
 ……なんじゃそりゃ。少なくとも俺の知り合いに、人妻なんかいねえ。
 誰だよ、そんな無責任なことしたの!?
 それじゃ、まるでこの子を――って、ちょっと待て!
「……匠さん、それって……」
「まさかとは思うけどな……」
 明日香も俺と同じことを考えたらしい。口元が引き攣っている。
 ニコニコと無邪気に笑う美玖ちゃんを、俺と明日香は何も言えずに見つめていた。


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