亮祐の頼みを千尋は快諾し、すぐさま掃除に加わった。
「それで、どういうことなの、いきなり掃除を命令されたって?」
「ああ、それが俺にもよくわかんないんだけどね――」
 箒を弄びながら、亮祐はよっと机に腰掛けた。
「お行儀悪いよ」
 千尋に苦笑されつつ、亮祐は原因となった先ほどの出来事を話し始めた。

〜合縁奇縁のミルフィーユ〜
25話 朱鷺之宮の魔女?

「――と、いうわけ。もう、わけわからん」
 話し終え、亮祐は嘆息した。
 本当に何が真壁の勘に触ったのか。まさか、英治たちの予測通り、なんてことはないのだろうが。
 恐らく、何か気に入らないことがあって口答えした亮祐に当たった、というところだろう。
「…………」
「ホントだよなあ。リョウの何が気に食わなかったのか。つーか、真壁って、あんな意地悪な奴だったっけ?」
「いや、気さくな先生だろ」
「そうよね。真壁センセ、結構女子にも人気あるよ?」
「…………」
 穂乃果の言葉に、男三人は頷いた。
 真壁が女子に人気があるというのは知っているからだ。
 清の言う通り気さくなので、男子にもなかなか好評な先生なのだが。
 そんな気さくな教師が、なぜ強引としか思えないほどのことを言い出したのか。それも生徒に当たるという、常識外れなことまでして。
「なあ、小笠原さんはどう思う――って、おい?」
 亮祐は千尋の意見を訊こうと顔を向けて――戸惑った。
 千尋が、凄く困った顔で目をキョロキョロとさせていたからである。
「ど、どうした?」
「え、うん、そのネ……」
「ああ」
「実はね、その、もしかしたら……」
 オドオドと、捨てられた子猫みたいに不安げな表情。
「だから、どうしたんだって」
「その……長塚君が、掃除当番押し付けられたの……私のせいかも……知れない」
「は?」
 亮祐は、目が点になった。
「ううん。多分、きっと私のせいだ……」
「何で小笠原さんのせいなのさ?」
 なぜクラスも違う千尋の責任になるのだろう。
 英治たちも理解できぬ顔で首を傾げている。
「うん……。実はね?」
「実は?」
「嫌わないでね、長塚君。お願いだから」
「嫌いやしないよ。約束する」
 怖いのか、そんなお願いをして来る千尋へ、亮祐は頷いてみせた。
「あのね。その――私、真壁先生にも告白されたことあるの……」
「――へ?」
「だからね、真壁先生に告白されたの、前に」
 千尋の漏らした言葉に。
 その場の時が一瞬止まり。
『ええええ!?』
 亮祐たちは一斉に驚愕の声を上げた。
「驚いちゃうのは当たり前だと思うけど、ホントなの」
「え、告白って、真壁が!? ええ!?」
「あれ!? 真壁先生って独身だったか?」
「いや、問題はそこじゃない!」
 微妙にずれた発言をする亮祐たち。
「嘘!? ああ、でも小笠原さんが嘘言うはずないし!」
「え、どんな感じで告白されたの? もちろん断ったのよね!?」
「う、うん。いくらなんでも先生と付き合うとか考えてないし。それに、好きじゃなかったから、断ったよ」
「そうよねそうよね! 先生が生徒に告白とか駄目よね。でも、凄い……」
 男以上に食いついた穂乃果。千尋も若干引きながら頷いていた。
「凄いとかはわからないけど……。でも、驚いたよ? だって、いきなり先生に『話がある』って屋上に呼ばれて、告白されたから。――断ったけど、ちょっと今でも気まずいんだよね。先生だし」
「そりゃそうよね。でも、真壁先生も何考えてるのかしら。教師なんだから、その辺り考えないと……」
「うん……」
 話し続ける女子二人に除け者にされた男三人は。
「マタ・ハリ……」
「カルメン……」
「ファム・ファタール……」
 思わずぼそり。
 そしてそれを耳聡く聞きつけ。
「誰が悪女よー!」
 千尋がうがぁーと吼え。
「小笠原さん、あんただよ!」
 亮祐が突っ込んだのだった。


BACKINDEXNEXT
創作小説の間に戻る
TOPに戻る