とりあえずの勉強会を終え、亮祐たちはお茶を飲みつつマッタリとしていた。
「ふう。一応、みんな苦手分野は一通り終わったかな」
「そうね。克服した――とまでは行かないけれど、苦手意識は多少なりとも改善されたんじゃないかしらね」
 亮祐の言葉に、純子が答え、他の面々も頷いた。
「なら良かった。ま、あとは各々の努力ってところかな。俺も含めて」
「亮祐君」
「ん?」
 千尋に呼ばれ顔だけをそちらに向けると。
「また一緒に勉強しようね」
「ああ」
 もちろんと頷くと千尋は嬉しそうにはにかんだ。
 その様子を横目で見ていた者たちは。
「……やれやれ。仲良きことは美しきかな」
 椿が心底あきれたように呟き。
「仕方ないわね。この二人に関しては」
 純子が苦笑し。
「…………!」
 璃々がギリギリと歯を噛み締め。
「リア充なんか嫌いだ」
 英治が拗ねたのだった。

〜合縁奇縁のミルフィーユ〜
 4話 動き出す刺客

 試験を明日に控え、皆がピリピリモード真っ盛りな教室。
 亮祐は顔を覗かせに来た千尋と最後の確認を行っていた。
「……つまり、こういうことだから……」
「うん、うん。それならね、この文における心情は……」
「そうそう、そういうことだよ」
「なるほど、わかった! ありがとう、亮祐君」
「どういたしまして」
 笑顔の千尋に、亮祐も笑顔で返す。
「よし、これでもう大丈夫だぞっと。それじゃ、亮祐君、またあとでね」
「ああ」
 手を振って千尋を見送り、さて、次の授業の用意をしようとした時、声がかけられた。
「リョウ」
「何だ、英治」
「試験終わったらさ、アキバに繰り出さないか?」
「アキバに?」
 首を傾げると、英治は「おう」と力強く頷いた。
「明後日で試験も終わりじゃん……どうだ?」
「いいぞ、行こう」
 亮祐は英治の提案に即答した。
 ここしばらくは、勉強会やら試験勉強やらで全く遊べていなかったので、ここらで秋葉原に行くのも悪くない。いや、むしろ良い。
 確実に行くべきだ。
 オタクの誇りとして。
「うんうん。そうこなくっちゃな。久しぶりにアキバ巡りと行きますか」
「おう」
 拳を打ち合わせ、二人はニィッと笑った。

「友人がリア充になっちゃったからな、可愛いメイドさんでも見なきゃやってられねえ」
「そこでも俺を引き合いに出すか、英治……」
「どこでも引き合いに出すわっ」
「威張んじゃねー!」

 明後日。
 長かった試験も終わり、亮祐は開放感に思いっきり伸びをした。
「ようやく終わったああああああ!」
「おっしゃあああ! アキバじゃあああ!」
 横では英治が片腕を突き上げていた。
「よし英治。じゃあ、3時にアキバの改札口に集合な」
「おっけ。おっけ。……ところでさ」
「ん」
「小笠原さんと遊ぶ約束とかは大丈夫なのか? デートとか、その辺」
 心配しているらしい英治に、亮祐は手を振った。
「問題ない。今度の日曜に約束はしてるけど」
「そうか、なら平気だな」
「おう」
 サムズアップし、二人は廊下へと足を向けた。

 亮祐と英治が校門に差し掛かったとき、声がかけられた。
「亮祐君」
「え? ああ、千尋」
 そこにいたのは可愛い彼女である千尋。
 笑顔でトテトテと小走りに近寄ってきた。
「今帰りでしょ? 一緒に帰ろ?」
「おっけ。英治も構わないか?」
「当たり前だ」
 英治も快諾したので、三人で帰ろうとした矢先――。
「あ。携帯がない。教室に忘れたみたいだ。先に行っててくれ」
 制服のポケットに入れたはずの携帯がない。
 どうやら、自分の席に置き忘れたらしい。
「ん。そうか。なら先に行ってる。小笠原さんは?」
「えっと……」
 待ってる、と言いかけたのを、亮祐は遮った。
「いいって。英治と先に行ってて。すぐに追いつく」
 たかが教室に行って戻ってくるだけだ。待っていてもらうほどではない。
「うん、わかった。先に行くけど、できるだけ早く来てね? ダッシュだよ?」
 若干不満げな千尋に苦笑しつつ、亮祐は頷き、踵を返した。

「ふーん。あれが小笠原千尋……。紛れもない美少女だわ、、確かに」
 その様子を眺めていた少女は小さく口笛を吹いた。
「あんな子と付き合ってる男を落とすのか……。結構骨だけど、やりがいあるわね」
 ニヤッと笑い、小さく舌を出す。
「じゃあ、始めましょうか。楽しい楽しい誘惑の時間を――」


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