24話 鼓桜華大捜査網!

 連絡すると久保はすぐさま戻り、校門まで歩きながら情報交換。
「裏手にそんな場所があったのか。本当にやべぇな。まずくね?」
「そうだよ、まずいしヤバいんだよ。だから、早く大和川さんたちが来てくれるといいんだけど」
「どんなに急いでもあと30分はかかるだろうしな。俺らだけで行こうぜ。待ってる余裕なんてないだろ?」
「ああ。ない。俺もそれを考えてる。だから久保、早く校門まで来てくれ」
「わかってる。すぐに着くから、1分だけ待ってろ」
 久保も走っているんだろう。硬い靴音が電話越しに聞こえてくる。
「おう。待ってる」
 電話を切り俺も走り出す。少しでも早く――その思いだけだった。

 久保は言葉通りにすぐに現れた。二人して頷き合い、外の道路を見やる。
「まだ来ないか……。もう行かないか。こうしてる間にも鼓さん、あのクズの毒牙に掛かっちまいそうだし」
「――ああ。そうしよう。ここで待ってる暇なんてないし」
 二人が、向かったという裏手のホテル街に足を向けた。
 その時。
 突如として現れた、黒塗りの高級車が猛スピードで向かってきた。
 タイヤを軋ませながら、見る見る内に迫り俺たちとの距離が詰まってくる。
「ちょ……!」
 轢かれる!? と身体が強張ったのも束の間、車は猛スピードが嘘だったかのように俺の前で見事に停止。
「な……」
 一体、何だ? と思ったとき、見覚えのある車だということに気がついた。
「大和川さんの車?」
「ごめん、お待たせ!」
「お待たせしました! 桜華さんは?」
 果たして、車から飛び出してきたのは大和川さんと綾辻さん。
 キョロキョロと落ち着かなさそうに周囲を見渡している。
「わからない。だけど手がかりはある。ここで説明してる暇ないから、移動しながらで」
「わかった!」
「はい!」
 車に乗り込む時間すら惜しい。
 俺達はそのまま走り出した。

「まさかそんなことになってたなんて……! 桜華の馬鹿! どこまで馬鹿なのよ、あの子は!」
「桜華さん……! そこまであの男性のこと、好きだったんでしょうか」
 走りながら、二人が親友への思いを吐露している。
「……鼓さんにとっては、あの野郎は初恋の相手だろ? だから、余計に想いが強いんじゃねーの?」
「信じたいって気持ちのほうが、俺らから告げられた事実より重いんだろうさ」
「だからって、ホイホイとホテルまで付いていく!? 下手しなくても一生トラウマに残るわよ、今のままじゃ!?」
「だろうなあ。だから、今追っかけてるわけだし」
 一瞬たりとも足は止めない。一秒でも早く、二人に追いつくために。
 ちなみに、あの高級車はでかすぎて細い路地には入れなかったので、そこ置き去り。
 頼むから……見つかってくれ!

 ホテル街を縦横無尽に走りまくる。だが、見つからない。
「くそ。どこだ!? どこにいる?」
「まさか……もう、どこかのホテルに入ってしまっているのでは……」
 綾辻さんが今にも泣きそうな声で呟く。
「……それはあまりないと思う。今の桜華でも、最後の良識はあるはずよ。言われるままにホテルに入るとは思えない。だからって猶予があるとは思えないけど……」
 元々貞操観念は面白いくらいに高いから、と大和川さんは付け足した。
 ならば、その良識にかけるしかない。
 鼓さんが、最後の最後で目を覚ましてくれれば――。
 募っていく焦燥感を無理矢理ねじ伏せつつ、路地を曲がったとき、見覚えのあるポニーテールを視界の隅に捕らえた。
 ――いた!
 一軒のホテルの前で、前原らしき男となにやら揉めている様子。
 よし、今のうちに――。
 俺は他のメンバーに声をかけ、足を更に早く回転させる。正直言って、一対一じゃ前原にゃ勝てないだろうが、そんなこと言ってられない。
 段々と大きくなる二人の姿と共に、言い合っているらしい声も耳に入ってくる。
「そんなに躊躇うことじゃねえよ。みんなやってることだしよ」
「で、でも、まだ私高校生ですし……。せめて卒業してから……」
「お前まだ二年だろ? 俺どれだけ待たなきゃなんねえんだ? いいから入るぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください、前原さん。先ほどの話は――」
「だから、それをもっと話すためにも二人っきりになろうてことで入ろうってんじゃねえか」
「ですが、こういう場所は、まだ……」
 大和川さんの指摘がビンゴらしい。前原の誘いに、鼓さんは抵抗している。
 まだ、望みはある――!
「待てや、前原ああああああああ!!」
 気づけば。
 俺は大声で叫んでいた。


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