10話 新たなる依頼

 俺と鼓さん、堺先輩の初顔合わせから、数日が過ぎた。 
 ちょくちょく二人から経過報告のメールが(なぜか)入るので状況把握には困らないが、文面から察するに、どうやら日曜にそれぞれの両親込みで話し合いをするようだ。
 ――上手くいけばいいけどね。
 そう思わずにはいられなかった。

 そして。
「何で俺がまた呼ばれてんの?」
 前に座る二人の顔を順々に見て、呟いた。
 月曜日の放課後。
 授業を終えると同時に堺先輩からメールが入り、『放課後、ちょっと付き合え』とのこと。
 特に用もなかったので指定の茶店――鼓さんと来たことのある――に行くと、鼓さんも揃っていた。
「相談したいことがあるんだ」
「相談……ですか?」
 それでわざわざ俺を呼んだのか。
 だったら、その相談とはなんだろう。
 話を促すと、今度は鼓さんが口を開いた。
「メールで度々ご報告していた通り、昨日、私たち家族と堺さん家族で話し合いをしました。許婚の解消を母が大反対したり、父を始めとして総出で説得したり……。時間はかかりましたが、最後は納得してもらい、無事に許婚の話はなかったことになりました」
「そりゃよかったんじゃんか」
 ほっとした。
 淡々と鼓さんは話しているけど、緊張感も何もないから、ほっとしているのだろう。顔つきも柔らかくなっているし。
「はい、色々と葛西君には相談に乗ってもらったり、大変力になってもらいました。ありがとうございます。改めてお礼を申し上げます」
 正面の鼓さんが深々と頭を上げる。
「いいって、そんなお礼なんて。大したことしてないし」
 全く律儀な。
「俺からも礼を言わせてくれ。ありがとうな、葛西。とにかく、許婚問題は乗りきれたからさ」
 堺先輩までもが頭を下げてきたので、手を首を振って、もういいとアピール。
「もう、いいですから。それよりも、相談って、なんです?」
 本題はそっちだろうし。
 促すと、一度二人は顔を見合わせてから、小さく頷き合った。
「それは俺から話すよ。……葛西はさ、俺も桜ちゃんも好きな相手がいるって知っているだろ?」
「ええ、知ってますけど?」
「誰か……までは知らないよな?」
「知りませんねえ」
 知るわけもない。
「だよな。それはいいんだ。たださ」
「ただ?」
「俺にしろ桜ちゃんにしろ――その相手とそこまで親しくはないってことなんだよ。早く仲良くはなりたいんだけど、きっかけがないというか、なんというか――」
「緊張してしまって、上手く話せないといいますか――」
「つまり、足踏みしてしまっていると」
 そういうことでいいっすかね? お二人さん。
 遮って言うと、二人は案の定、コックリと頷いた。
「それで――俺にどうしろと?」
 相談事はそれか。
 途端、先輩がガバッと身を乗り出してきて、俺は思わず仰け反った。
「頼む! 何か仲良くなれる方法を考えてくれ! 何度か二人で話し合ったんだが、上手い方法が思いつかなくてな。骨を折ってくれた葛西なら何かいいアイデアが浮かぶんじゃないかと思ってさ?」
「お願いします! 私、人を好きになったのって、今回が初めてで……。どうすればいいのかさっぱりなんです」
「いや、そう言われても……。俺だって女の子と付き合ったこととかないし……」
 年齢=彼女いない暦ってやつです。
 そんな俺に訊きますか、あなたたちは。
「それでも、俺らよりはマシだと思う。だから頼む! 何かいい方法考えてくれ!」
「お願いします!」
 頭をテーブルにぶつけんばかりに下げる二人。
「だからって」
「な、この通り!」
「葛西君、後生です!」
 その後も延々とお願いされ続けて。
 結局。
『好きな相手と仲良くなれる方法』を考える羽目になったのだった。


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