11話 作戦会議

 翌日、俺は久保に事情を説明して、助けを求めた。
 いくらなんでも、恋愛経験がゼロに等しい自分にいいアイデアが浮かぶとは思わなかったから。
「それはまた……。面倒くさいお願いをされたなあ」
「仕方ねえだろ。あそこまで二人に頭を下げられちゃあさあ……」
 学食で昼食をパクつきつつ、話し合い。
「それはそうだろうけどよ。で、どうするんだ?」
「だから、お前に相談してんでしょーが。お前もない知恵絞ってアイデア出せ。困ってんだよ、ホントに」
「んなこと言われてもねえ? 俺だって生まれてこの方、デートしたことないんだし。葛西だってそうだろ? そんな俺らが恋愛相談なんて無理すぎじゃね?」
「無理は百も承知。ああまで必死になってる二人を蹴るなんてことできないんだよ」
 水を飲んで眉を寄せる。
 問題は、ある程度親しいが、けれども二人きりになれるほどでもない、という微妙な距離感。それさえクリアできれば、一気に行ける気もするんだけど。
 難関は、その切っ掛け作りなんだよな。
「上手く、先輩と鼓さんの片想いの相手を引っ張り出せりゃいいんだよな? 何かテキトーな用事作って、呼び出せば?」
 久保の提案に頷きそうになるが、すぐに首を振った。
「それは俺も考えたけど。それすらできないから、悩んでるんだよ。呼び出せるくらいなら、自分で告ってるでしょ」
「それもそうか」
 ……全く、どうしようか――。
「集団デート」
 その時、涼やかな声が聞こえた。
「は?」
「え?」
 振り返ると、そこには佐野さんがパックの野菜ジュース片手に立っていた。
「だから、集団デート。そのほうが気楽にできると思うけど」
 繰り返す佐野さんに、俺は呆れた目を向けた。
「いつから聞いてたんだ。盗み聞きってよくないよ」
「聞き耳は立ててないわよ。聞こえたからそっちに意識を集中しただけ」
「それを聞き耳って言わない?」
「言わない」
 佐野さんは問答無用であっさり否定すると、俺の隣に座った。この相談に参戦する気満々らしい。
「それで? 集団デートってどこからの発想さ?」
 今更追い返せるわけもない。アイデアを貰った方がお得だろう。
「その当事者二人とも、片想いの相手とそこそこは親しいけど、二人きりとかになれない、なれたとしても上手く話せないらしい、ってことなんでしょ?」
「その通りだけど?」
「だからこその集団デート。みんなとワイワイやれば雰囲気も楽しいし、自然に話せるんじゃないかな。で、ある程度時間が経過したら頃合を見計らって、ばらければいいし。……どう、この案は?」
「なるほど。Wデートって奴ね。なら鼓さんと先輩にそれぞれ相手を誘ってもらって……」
 いいなんだと思ったけど、佐野さんがコツン、と俺を小突いた。
「違うでしょ。上手く話せないって言ってる人たちをWデートの形で誘ってどうするのよ。そんな人たちで行かせたところで、たいして話もできずに終わるわ、間違いなくね」
「じゃあ、どーしろと?」
「だから、大勢で行くの。色々な人と話せば肩肘張らずに済むし、リラックスしできるでしょ? 変にデートって考えないほうがいいかも。みんなで遊びにいくって感じで。……どう?」
「そうか、そのほうが意識しないでいいかも」
 佐野さんの言うことは一々もっともだ。
 最初はみんなで遊んで、その内に意中の相手と二人になってもらって――という感じか。
 ――うん、いいな、それでいこう。
 久保も頷いてるし、問題なさそうだ。
「ありがとう、佐野さん、いいアイデア貰ったよ。それでさ、それ以外に何かある? あれば教えてもらえないかな?」
 念のため訊いてみる。
「そうね、メンバーの男女のバランスかな。こういうのって、男女の数同じがいいんだよね。葛西君たちも参加でしょ? となると、後二人、女の子に参加してもらわないとね」
「女の子二人か……。ちょっと難しいけど、当たってみるか」
 いや、俺自身に当てはないけど、鼓さんがね……。
「うん、あるならそうして。まあ、もしどうしてもっていうのなら、私が友達誘って付き合ってあげるから」
 ニヤリと笑いながら佐野さん。
 うむ、全力で遠慮しよう。どんな要求が来るかわかったもんじゃない。
 ――その後、佐野さんに、やっぱりランチを奢る約束をさせられつつ、作戦は決まった。
「んじゃ、早速鼓さんと先輩にコンタクト取って、話してみるか」
「おう、よろしく、葛西。俺の未来の彼女に会える日のために!」
 久保、少しはそこから離れろ……。


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