Simple Life
文化祭は大騒ぎ!
6話

〜五行匠〜

 あの片瀬の告白の後、ケーキ屋前は大混乱に陥ってしまったので、仕方なくケーキは諦め、我がクラスの御茶屋さんへと舞い戻ってきていた。
「あ〜あ。片瀬のお陰でケーキ食い損ねた」
「……あの、そんなことより、片瀬さんの告白の方が問題だと思うんですけど?」
 明日香が俺の態度に眉をひそめる。
「ヘーキヘーキ。千秋が片瀬を追いかけていっただろ。任せときゃいいさ」
 あれはあいつらの問題だからな。自分の彼女とのことだ、自分で解決してもらおう。
 パタパタと手を振った俺に、明日香がこれ見よがしにため息を吐いた。
「あなたという人は……。どこまで楽観的なんですか」
「変に悲観的になっても意味ないだろ。それに、いつかはあいつらが付き合っていることはバレるんだし。それが今日だったというだけだよ」
「大騒ぎだったじゃないですか。既に学校中が知ってると思いますよ……?」
「だろうなー。さすがは有名人同士カップル。落ち着くまでは時間かかるだろ」
 栗羊羹を一口頬張る。
 うん、さすがに有名店から仕入れただけあって、美味い。
「以前から知っていた私たちも何かしたほうが」
「何もできんでしょ。何かできること思いつくのか、明日香?」
「そ、それは」
 うぐっと詰まる明日香。
「思いつかないだろ? だったら静観するしかないんだよ。変に騒がずに、な」
「確かに」
 明日香もそう悟ったのか、ふうとため息一つ付き、お茶を飲んだ。
「それにしても、千秋もモテるよな。あのくっ付いていた女の子、他校の子だろ?」
 特徴的な髪型の女の子。聖嶺では見たことがない。
 間違いなく、他校の子だ。
「そうですね。それにこれでもかというほど、千秋君に擦り寄ってましたから。片瀬さんが爆発するのも無理はありませんね」
「だよなあ。あれがなきゃ、片瀬が公衆の面前でバラすことなんてなかったろうに」
 あの子、わざと片瀬に暴露させようとしていたように見えるしな。
「でしょうね」
「しかし、あの子ナニモンだ? 見た感じ、千秋と親しいみたいだったけど……」
「あ、そのことなのだけど」
「ん?」
 茶碗を持った手を止め目を向けると、明日香は周囲を見渡してから、口を開いた。
「あの子の名前は、宇佐美奈津さん。現在中学三年生ね」
「……何で知ってるんだ?」
 もしかして、知り合い?
「匠さんは『宇佐美グループ』って知ってる?」
「名前だけならな。あの大企業だろ? あらゆる分野に手出してる」
 某有名アメリカドラマの『ブラジャーからミサイルまで』って感じの。
「ええ。その会長の名前は宇佐美蒼司。若手ながらやり手として政財界からも一目置かれている人ね」
「へえ。すげえオッサンなんだな。……ん? 宇佐美?」
 あれ、同じ苗字? ってことは。
 俺の疑問を察したのか、明日香は小さく頷いた。
「そう。あの子は宇佐美グループ会長、宇佐美蒼司のご令嬢」
「さすがは同じ上流階級の飛鳥井明日香。よく知ってるもんだ」
 俺なんて、会長の名前すら今知ったくらいだし。
 すると、明日香は僅かに苦笑した。
「残念ながら、私だってつい先日まで知らなかったの。そもそもは、一夜さんが調べ始めたから、私も知ることができたんですよ」
「……遠矢が?」
 何でまた、あいつが?
「ええ。急に宇佐美グループの事を調べ初めて。一体何がどうしたのかと思っていたのですけど。きっと千秋君の近くにいる宇佐美さんのことが気になったのね」
「親友だもんな」
「それに、私もほかの風紀委員の子とかに訊ねてみたんですけど。少し前から、あの子は千秋君の近くに出没していたみたいですね」
「へえ……」
「色々と千秋君にちょっかいをかけていたんでしょう。だからこそ、一夜さんが調べ、片瀬さんが爆発したんでしょうね。せっかくの文化祭にまで現れた宇佐美さんに対して」
「それは無理もない。宇佐美奈津って言ったか、その子? 片瀬には自分と千秋を仲に割り込んできたお邪魔虫に見えてたんだろうな」
 でもそうすると、その宇佐美って子と千秋の接点はどこにある? まさか、一流企業会長の令嬢がたまたま見かけて一目惚れってわけでもあるまい。
 いくら何でも都合が良すぎる。
「何か裏がありそうな予感……」
「裏かどうかはわかりませんけど。目的がありそうな感じではありますね」
「だな、それに……」
 千秋とその子、なんだか似ていた気がするんだよな。見た目とかじゃなくて、もっとこう、根っこのところで。
「匠さん?」
 急に黙った俺を怪訝に思ったんだろう、明日香が眉をひそめていた。
「ああ、なんでもない。御菓子とお茶、お代わりするか?」
 俺も明日香も食べ終えちゃったし。
「そうしましょうか」
 セットのお代わりを二つ注文。
 だが。
 お代わりを持ってきてくれたクラスメイトが、興味津々の顔をしてた。
「どうかしたか?」
「あの?」
 二人して怪訝な顔をすると、そのクラスメイトは俺たちを交互に見て。
「ねえ。さっきから気になってたんだけど。二人で回ってたみたいだし、ここでも随分仲良さげだし。……もしかして、付き合ってるの、飛鳥井さんと五行君」
 目を爛々と輝かせて、そう訊ねてきた。
 俺は明日香と視線を交わし――頷いた。
「ああ。付き合ってる」
「夏前から」
「やっぱり! 実は準備辺りから仲いいなーとは思ってたんだ。そうだったんだ、ニヒヒー。ごゆっくりー」
 クラスメイトは品のよろしくない笑みを残して戻っていった。
 その様子に苦笑して、俺は肩をすくめた。
「こりゃ、こっちも明日からうるさそうだな」
「ですね。まあ仕方ないです。いつかは知られるんだし。隠すことでもないですし」
 明日香も微苦笑を浮かべ、お茶を上品に飲んだ。
「明日香の言う通りだな」
 悪いことしているわけじゃないし、堂々と付き合っていくさ。
 なあ、明日香?

〜了〜


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