Simple Life
 文化祭は大騒ぎ!
1話


〜飛鳥井明日香〜

 現在、HRの真っ最中。
 テーマは文化祭の出店について。
 何をするのか――その話し合いだ。
「喫茶店、出店、ゲーム……。こんなところか。さ、後は投票で決めるので、皆さん、やりたいと思った物に投票してください」
 高校のクラスで行う出し物と言ったら、そんなところだろう。無理して奇を衒ったものをする必要なんてないし。
 ……一人、そういうことを非常にしたがる困った人がいるけれど。
 壇上に立った文化祭の実行委員が投票箱を教壇に置いた。
 配られた用紙を見つつ、私はなんて書こうかと思案した。
 せっかくの文化祭。是非楽しみたい。何せ、最後の文化祭なのだから。
 匠さんと恋人として過ごせる最後の文化祭でもあるのだから。
 一分ほど考えて、それから書いて投票。
 他のクラスメイトはどんな感じだろう、と思って見回すと、みな思い思いに書いて投票しているようだ。
 中にはどうしようかと悩んで頭を抱えている人もいる。
(匠さんは……)
 そちらに目をやると、シャーペンを片手に中を睨んでいた。
 珍しくまだ決めあぐねているよう。
 本当に、珍しいこともあるものだ。
 でも、匠さんは、なんて書いて投票するんだろう?
 少し、知りたいと思った。

「ええと、投票の結果――」
 結果を見て、私は意外な面持ちだった。
 いや、私だけではなく、クラス中の女子全員が「へえ」という表情をしている。
 それもそのはず。
 文化祭でやる出し物に決まったのは。
「『純和風喫茶』に決定しました」
 純和風喫茶――つまり『茶屋』ということだろう。
「お茶屋さんかあ。ヘタに喫茶店とかやるより、面白いかも」
「そうねえ。でも、和風ということはさ、着物を着るってこと? うわ、あたし着付けできない!」
「私だってそうだって。そもそも、持ってないよー?」
 そんな声がクラスメイトから上がってくる。
 そうか、着付けができな子も多いのね。その辺りも考えないといけないわけか。
「男だってできねーよ、着物の着付けなんて。誰かできるやつ、いるのか?」
「甚平じゃ駄目かな、浴衣すら持ってねえんだけど……」
 男子からも同じような疑問の声が。
 それも当然ですね。男子高校生で着付けのできる人って、凄く稀有な存在なのではないだろうか。
「あー、そこんところを今後話し合うから。取り敢えず、静かにしてくれー」
 実行委員がポンポンと手を叩いて注意を促す。
「じゃあ、真っ先に話し合わなきゃいけないのは、着物を持っているかどうか。これは……浴衣でもOKということで。甚平もOKにしておこう」
 確かに。和装を持っている高校生徒いうのは少ないだろう。浴衣や甚平ならともかく。
 私は着物も浴衣も持っているし、着付けもできるけれど、それはまた特殊な例だろう。
 実行委員が着物なり浴衣なり甚平なりを持っている人に挙手をさせ、複数枚持っている人、さらに着付けができる人を挙手させていく。
 ……さすがに複数持っている人も殆んどいなければ、着付けができる人も殆んどいなかった。
 複数持っていたのは私を含めて四人。着付けができるのは私を含めて三人だった。
 しかし、意外だったのは。
 匠さんが着物を持っている上に、着付けもできると手を上げたこと。
 この人にできないことなんてあるのだろうか? 時々そう思ってしまう。
 でも、ちょっと残念。
 匠さんが着付けができるということは、私が着付けをして上げるというやぼ……何でもないです……。
「じゃあ、複数持っている人は持ってきてもらうとして。それでも足りない分は……」
「作るってのも楽しそう。どうせ文化祭の二日間だけでしょ? 見た目だけならなんとかなるんじゃない?」
 委員の言葉に被せるようにクラスメイトが発言し、賛成の意見が多数出た。
「ならそれで。足りない分は作る、と。で、着付けができる三人は飛鳥井さんと倉島さんと……五行? お前、本当にできるのか?」
「できるわ! タイタニック号に乗ったつもりで任せろ!」
「まずいじゃねーか!」
 匠さんの(間違った)自信満々の台詞に、思わずといった感じで実行委員の突っ込みが入った。
 全く、もう。
「はは、冗談だ。本当にできるよ。衣装合わせの時にでも証明してやるから」
 ヒラヒラと手を振り、匠さんは笑った。
「……わかった、そういうことにしておく。では、その三人は着付けを頼む」
『はい』
「後は内装と、メニュー。役割分担も決めないと……」
 次の議題に進んでいくHRを聞きながら、私は文化祭への期待感と、絶対に匠さんが起こすであろう騒動への不安を幾分抱え。
 それでも最後の文化際、しっかり楽しもうと決めた。


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