目の前の光景に、長塚亮祐はどうしたもんかと思案した。
(手伝ってやるべきか)
街中にある本屋。
その漫画のコーナーで、一人の同年代の少女が一生懸命に棚に手を伸ばしている。棚の上部にある漫画を取りたいのだろうが、小柄な為に最上段にある棚に手が届かないのだ。
「……仕方ないな」
亮祐の欲しい本も、少女が手を伸ばしているすぐ近くにある。亮祐は踏み台を持ってくると少女の隣に立ち、サッと登る。
「欲しいの、どれ?」
「え!?」
いきなり声をかけられて驚いたのだろう、少女は目をパチパチとさせて、突然隣に立った亮祐を見上げた。
「どれ、欲しい漫画」
繰り返し訊ねると、ようやく少女は理解したようで、あるコミックを指差した。
「ええと、そこにある……はい、その『神様! 売切れ御免!』の二巻と三巻を」
「わかった」
注文通りにコミックを取り出し、少女に手渡す。ついでに自分が欲しかった『万色のパンドラ』の六巻も取る。
「よっと」
軽快に降りると、念のため少女に確認する。
「それで間違いない?」
「はい。ありがとうございます。すみません、わざわざ」
「ついでだから」
亮祐は深々と頭を下げる少女に素っ気なく言うと、踏み台を元の位置に戻し、軽く手を上げた。
「それじゃ」
「あ、はい。ありがとうございました」
「いいよ、もう」
亮祐は目的のコミックを手にして、足早にレジカウンターへと向かった。
少女は少しの間、亮祐の向かったほうをじいっと見ていたが、はっと我に帰ったように辺りを見回すと、急いでその場から離れていった。
~合縁奇縁のミルフィーユ~
1話 あるはずのない接点?
亮祐は雑誌のページをめくる手を止めて、首をかしげた。
「昨日のアニメ?」
「そ。深夜にやってるあれ。どう?」
「絵柄が気に食わないから見てない」
友人の高見沢英治の質問に、亮祐は首を振った。
「そっかー。ネットでも評判よくねえんだよなあ。やっぱり原作とキャラデザが違うのがまずいのか?」
「それあるだろうけど、声優が合ってないってのが一番の批判だろ」
「それもそうか。アイドルなんか使ってるからな。感情が籠もってないもんな」
「そういうこと」
頷く亮祐たち二人に、クラスの女性との視線が――呆れたというか、侮蔑の含まれた視線が――突き刺さる。
(やだあ、またあいつら?)
(キモイ、ウザい。ここでよくアニメの話なんかできるよねー)
(オタクなんか消えろっての……!)
ヒソヒソと、女生徒らの陰口。だが、亮祐も英治も気にもしない。
当然だ。自分たちがアニメオタクだという自覚はあるし、別に隠しもしていないのだから。
聞こえてくる中傷に、苦笑して肩を二人してすくめる。
「そろそろ予鈴だな。また後で、リョウ」
「おう」
軽く会釈して、英治は自分の席に戻り。同時に予鈴が鳴り響いた。
亮祐も小説の連載紙を鞄に片付ける。
今日も日常の始まり。
――長塚亮祐。
私立朱鷺之宮高校1年D組、出席番号23番。
前述通り、立派なアニメオタクである。
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