13話 先行き不安
金髪。
ピアス――耳の他に口にも。
タンクトップにカーゴパンツにサンダル。
日焼けした肌に肩口のタトゥー。
ガムをクチャクチャ噛みながら気だるそうにしている。
はっきり言って、不良というか、チンピラに近い雰囲気。
こ、こいつが……鼓さんが想いを寄せる男なの、本当に!?
イメージが全く違った。
鼓さんのことだから、もっと実直と言うか、生真面目な感じの人だと思っていた。
それが――いざ会ってみれば、このDQN。
でも――取り敢えず挨拶しないと。
「こ、こんにちは。俺、葛西和仁って言います。よろしく」
できる限り穏やかに話しかける――が、全くの無視。
「…………」
久保や堺先輩も挨拶したが、やっぱり無視。
だけど、恐る恐る相模先輩や大和川さん、綾辻さんが挨拶したら「ああ、可愛いじゃねえか! なあ、今度俺らの大学の連中と合コンしねえ? 女に飢えてる奴、一杯いるからよ」と来た。
信じらんねえ。
初対面で合コンのお誘い。それ自体は悪いとはいわないけど、その態度や言葉遣い……。
つーか、大学生なのか、こんなんで。
よく入れたな。
「お断りするわ。間に合ってるので」
「うち、そういうの禁止だから。他当たって」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!」
女性陣はそんな感じで断ってたけど、綾辻さん……なんか可哀相に見えてきた。
大丈夫かな、今日の集団デート。
とりあえず、なんとか自己紹介が済み(鼓さんから奴の名前は『前原修』と教えてもらったんだけど、自分でちゃんと言えよ)、俺たちは中へと入った。
嬉しそうに前原と歩く鼓さんの後ろを、俺たちが着いていくという形。
「ねえ、大和川さん。あれが鼓さんの好きな奴? 思いっ切り予想外なんだけど」
横を歩く彼女に訊いてみると、大和川さんからも困惑の感情が帰ってきた。
「私だってまるっきり予想の外よ。あんなのが桜華の好みだったなんて。話と全然違うじゃない!」
「話は聞いてたってこと?」
「ええ。桜華曰く『見た目と違って、凄く優しくて真面目な人よ。勘違いされるって嘆いてたくらいだから。根はいい人だから』って。……でも」
「勘違いじゃないよね、それ」
「ええ、全くよ。アレのどこが凄く真面目で根はいい人になるのよ!?」
うん確かに。どこどうやったら、初対面の女の子に合コン持ちかける男が真面目な奴になるんだ?
そもそも、二人が知り合った切欠が知りたいわ。
「私たちの学校、教育の一環として当番制で福祉施設でのボランティア活動があるのよ。そこの施設で知り合ったって。他にも同じ大学から何人か来てたみたいだけどね」
「あれがボランティア?」
いくらなんでも無理がないか、それ。あいつがボランティアを自主的にやってます、なんて、百人中百人が信じないと思うぞ。
「私もそう思うんだけどね。ああ、こんなことなら無理にでも聞き出しとけば良かった」
「わ、私はあの人嫌いです。怖いですし、無礼ですし、桜華さんに相応しくありません」
綾辻さんが強い口調で言い切った。まあ、同感ですが。
「でもさ、実はあいつ、恋愛とかに関しては凄く真面目! ってことはないのか」
綾辻さんの横を歩いている久保が一縷の望みを繋ぐように呟いたが、それ以外の全員が首を振った、横に。
「あり得ない。そんな人が、初対面の女の子に『仲間が女に飢えてるから合コンしよう』なんて言うと思う?」
「……それもそうだよな」
大和川さんに正論をぶつけられ、久保はあっさり頷いた。
「とりあえず、様子見?」
「うーん、それがいいのかなあ……」
と。
「何か嫌だなあ、あいつ。桜ちゃんと似合わねえし」
「私もそう思うな。彼、どう見てもロクな男じゃないし」
最後方から堺先輩、相模先輩の声。
先輩たちもやっぱりそう思っているようだ。
……どうすればいいんだろ?
このまま様子見で放っておくか。それとも何かしらのアクションを起こすべきか。
「――ねえ、葛西君」
「何?」
クイっと袖を引っ張られ、そちらへと顔を向ける。
「ちょっと提案があるんだけどさ、力貸してくれない?」
「鼓さん関連で?」
「もちろん。どうかな?」
じっと見上げてくる大和川さん。
俺の答えは――決まっていた。
「もちろん。協力させてもらうよ」