何とか復活した亮祐はお冠の千尋に謝り倒し、何とかお許しをもうことが出来た。
「本当に、もう。そりゃあ、亮祐君だって男の子だから、水着姿に目を奪われちゃうのは仕方ないけどさ、私が彼女なんだからね!? わかってるよね!?」
「はい、そりゃあもう。海よりも深く反省します」
 ずいっと千尋に詰め寄られ、必死に頷く。
 またあんなことをされては堪らない。今は謝り続けるに限る。
 千尋はそんな亮祐をじぃ〜と見ていたが、やがてうんと頷き、ニコッと笑った。
「よろしい。今回は許してあげる。ただし、さっきの約束は守ってもらうからね?」
「わかってます、わかってます」
 他の女の子――椿たちに見惚れてしまった罰として、千尋に掛かる海の家での代金は全て亮祐持ち、ということで話がついたのである。
「えへ。じゃあ、行こっ。楽しまなきゃね!」
「おう!」
 二人はパラソルを飛び出した。

〜合縁奇縁のミルフィーユ〜
 そうだ! 水着姿を堪能……じゃない、海に行こう! 中編

 夏真っ盛りの海を、めいいっぱい楽しむ。
 浅瀬で、浮き輪等を使ったりしながら泳ぎ。
 海から上がった後は砂浜でビーチバレー。
「おどりゃあああああ!」
「ぬああああああ! 何で俺ばかり狙うんだよ、あんたは!」
 亮祐は当然ながら千尋と同じチームに入ったのだが、これもまた当然の如く相手チームに入った璃々が、ずっとピンポイントに狙ってスパイクを打ってくるのである。
「死ねええええええええ!」
「口調どころか性格まで変わってるじゃねえええかああああああ!」
 必死になってレシーブし、躱し、打ち返すが、元々の運動神経は璃々の方が上らしく、亮祐の攻撃も功を成していない。
「ちくしょー!」
「積年の恨み、晴らさでおくべきかああああああ!」
「俺とあんたはそこまで長い付き合いじゃないだろうおおおおお!」
 他のプレイヤーなど眼中にない璃々のターゲットに晒され続け、最早亮祐は涙目。
「あ、あのー璃々ちゃん。そこまで亮祐君を狙わないでくれると嬉しいんだけどな……?」
 冷や汗を垂らす千尋の擁護に、璃々は満面の笑みを向ける。
「あら、優しいのね小笠原さん。大丈夫よ。長塚だって腐っても男。この程度でヘタレる程根性無しじゃないでしょうからねえ?」
「え、でも」
「それに、バレーで弱いところを狙うのは当然。遊びとはいえ手は抜かないわ。構わないわよねえ、長塚?」
 ニヤリと、あからさまな挑発を口にする璃々に亮祐の反発心が鎌首をもたげてくる。これ以上言われるのは男の沽券に関わる。
「もちろんだ! これ以上好き放題できると思うなよ、南雲ぉ!」
 ビシッ! と指を突き付けると、璃々はしてやったりとばかりに口の端を吊り上げた。
「よく言ったわ。少しは褒めてあげる。さあ、覚悟なさい、長塚ぁ!」
「上等だ! 行くぞ!」
  鼻息荒く、亮祐は手にしたビーチボールをサーブ。
「ね、ねえ亮祐君、やめようよ、璃々ちゃんとそんなことするの……」
 不安げな表情の千尋が、璃々と亮祐を交互に見やり、そんな言葉を口にする。
「え、なんでさ。俺だってそこまで運動できないわけじゃ……」
「そういうことじゃなくて……」
 怪訝に思う亮祐に対して、千尋はその表情を曇らせた。
「? それとも南雲さんを心配してる? それも平気だろ、あれだけやれるんだし……」
 向こうではトスされたボールが綺麗にまでに真っ直ぐ上がっていた。
 間もなくスパイクが来るだろう。今度こそ綺麗にレシーブを――。
「そうじゃなくて! 璃々ちゃんと勝負だなんて無理なんだよぉ、元々! だって璃々ちゃん……」
「南雲さんがなんだって?」
 落ちてくるボールに合わせ、璃々が跳躍する――。
 それを見た千尋が上ずった声を上げる。
「だって璃々ちゃん、中学の時バレーボール部で、全国にも行った学校のレギュラーだったんだよぉ!」
「……へ?」
「それも、エースアタッカー――」
 反射的に千尋を見てしまった亮祐の顔面に。
 ドガッ!
「ぶほぉ!」
 寸分狂わず、璃々のスパイクが直撃した。
「ま、またこんな展開……」
 火花が散る、とはこういうことをいうのか。本当に火花が散ったように感じるとは思わなかったが。
 変なことに感心しつつ、どう、と砂浜に沈む。
「ああ、亮祐君!」
「あちゃ〜。璃々のこと、もっと早く教えておくべきだったね……」
「ご愁傷様」
「そういうことはもっと早く言え……」
 力なく呟くしかなかった。

 昼食の時間は海の家。
 焼きすぎた感のある焼きそば、なぜか標準装備のラーメン、ぼったくり感ありありのフランクフルト、実も小さく出汁も薄い潮汁……。それらを適当に頼み、みんなでつまむ。
「こういうところで食う飯って、どうしてこんなにも美味いんだろうね。どう考えてもいい加減な作り方しかしてないのに」
「だよねー」
「あ、あたしもお弁当作ってきたから。足りないでしょ? 食べてね」
「おおお! 小笠原さんの弁当ー!」
「キャー! ちっひー、愛してるー!」
「叫ぶな!」
 などとやりながら。
 みんなしっかりと食事を堪能したのだった。

 

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