亮祐たちをも待っていてくれた英治たちに礼と謝罪をし、人数が人数なので、裏庭へ移動。
 いつも通りに千尋が持ってきていたレジャーシートを広げ、七人という大所帯にて食事。
「しっかし、本田と住友っつったっけ、この二人。あっさり許すたぁ、お人好しだねえ」
「いいんだよ、これ以上引きずるのもどうかと思うし。曲がりなりにも謝ってもらったからな、許すことにしたんだよ」
 英治の呆れた声にも動じず、亮祐は肩をすくめた。
「まあまあ、高見沢。長塚がいいって言ってんだからさ」
「わーってるよ」
 清の言葉に、今度は英治が肩をすくめた。
「そうそう。本人がいいって言ったんだから、あんたたちが口出すことじゃないよー」
「全くね」
 椿と純子がやれやれと首を振ったが――。
『お前らが言うな!』
 男三人で見事に突っ込んだのだった。

〜合縁奇縁のミルフィーユ〜
28話 歩み寄り

 それぞれが広げた弁当を囲み、ワイワイと昼食。
「うわ、ちっひーのお弁当おいしそー。何さ、長塚、あんた毎日こんな羨ましいことしてもらってるわけ?」
「おうよ。羨ましいか、ホレホレ」
 ニヤッと笑い、亮祐は椿に向かって摘まんだ唐揚げを振ってみせる。
「ぐわ! ムカつくー! ちっひー、いいの、こんな愛情弁当!?」
「え? うん。長塚君いつも全部美味しそうに食べてくれるから、私も嬉しいんだ」
「いやー! ちっひーが普通に惚気てるー!」
 千尋の返答に、椿が頭を抱えて叫んでいた。
「椿、静かにしなさい。うるさいから……」
 冷静に純子は椿に突っ込み、呆れたため息をついた。
「だって、だって。羨ましいんだもん。あうう」
「椿だって彼氏いるでしょ。デートの時にでもお弁当作ってあげればいいじゃない」
「私、料理できない……。彼氏にもそれは呆れられてる……」
「覚えなさいっ」
 
 剣呑な雰囲気になってしまうかと危惧したが、どうやら杞憂に終わったらしい。
 これくらいが、彼女たちにとっては普通なのだろう。
 亮祐と英治が、時にはど突き合いをするのと同じように。
 ……若干違うかもしれない。
「でもさー。長塚も強情だよね。ちっひーなんていう超美少女と付き合えるってのに、首を縦に振らないんだから。どう考えても、こんなチャンス二度とないよ」
「わかってるよ。オタクにはオタクなりの苦労があるの」
 椿の言葉に、亮祐は僅かに顔を顰めた。
 椿の言うことははっきり言って正しい。しかし、だからと言って、流されるままに『OK』は出したくない。それでは必ず後悔することになるだろうから。
 受け入れるにしろ断るにしろ、ちゃんと考えてから答えは出したい。
 それが千尋に対する誠実さというものだろう。
「苦労ねえ……。オタク辞めちゃえばいいのに」
 さらっと言われた内容に、亮祐と英治の顔が引き攣った。
「できるか! 辞めようと思って辞められるもんじゃない!」
「オタクは生き方だ!」
「威張るなっ。何だかなー。ちっひーはいいの、本当に彼氏がオタクでも?」
 矛先を向けられた千尋は目を瞬かせたが、あっさり頷いた。
「うん、構わないよ? 長塚君は長塚君だもん」
「あらあら。意志は固いのね」
 純子がフフと笑う。その笑みには若干の呆れが含まれていたが。
「なんだかなー、もう。からかうのも馬鹿らしく思えてきた」
 椿がやれやれとため息を吐き、サンドイッチに噛み付いた。
「諦めた? 小笠原さんとリョウ、結構いい感じになってるぜ? 周りで騒ぐのはやめといたほうがいい」
「別にそんなつもりはないわよ。むしろ、ニヤニヤしながら見てたいのよ、私は」
 英治の揶揄に椿はさらっと答え、言葉通りにニヤリと笑った。
「いい趣味してるぜ」
「お褒めに与り光栄」
 ああ言えばこう言う。上手い切り替えし。
 亮祐と英治、それに千尋は顔を見合わせて、苦笑いをし合ったのだった。

 昼食を終えて亮祐たちと別れ。
 千尋は椿、純子と教室へと戻っていた。
「……意外だったなあ」
「何が?」
 椿がふと漏らした疑問に、純子が首を傾げた。
「ん? ああ、長塚のこと。オタクだオタクだって言うからさ、ある程度は覚悟してたんだ。ほら、彼氏からは普通だから、と聞いてても、ね」
「それはそうね。それで?」
「うん。それでもちょっとは変な奴なんだろうなあって思ってたんだ」
「椿ちゃん、酷い」
 聞き捨てならなず、千尋が口を尖らせるのを笑って制し、椿は続けた。
「まあ待ってよ。でもさ、いざ話してみたら――」
「まともだったってわけね?」
「そうそう」
 純子に同意する椿。
「それには同感ね。私もそれなりに椿と同じような先入観持ってたし。『オタク』ってことで、変な目で見てたからかしらね」
「うんうん。でも、話してみて普通ねって思ったわけよ。――ちっひー」
「ん? 何?」
「長塚、いい奴みたいじゃない。頑張んなよ、応援するからさ」
「私も応援するわ。小笠原さん、頑張って」
 千尋は親友とも言うべき二人に何を言われたのか、一瞬わからなかったが――笑顔になって頷いた。
「うん、ありがとう! 私、頑張るね!」
 自分の恋が認められたことに、親友が祝福してくれたことに。
 千尋は心から、喜んだ。
 自分の想いは、ちゃんと通じている、通じる。
 何より、嬉しかった。


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