上機嫌で千尋が教室に戻ってくると、早速椿と純子に連行された。
「はいはい。ちっひー。どういうことなのか、きっちりちゃんと、事細かに説明してちょうだい」
「もう、わかってるよ。ちゃんと説明するってば」
 連行されたのはもちろん自分の席。トートバッグを片付けると同時に椿が自分の席から椅子を持ってきて、千尋の席の前に陣取った。
「さあ、ちっひー。説明してもらいましょうか。何でちっひーが長塚と仲良く食事してたのか」
 ニヤニヤと笑いながら訊いてくる椿。どう見ても、答えをわかっているくせに訊いている、そんな表情だ。
「……椿ちゃん。わかってて訊いているでしょ」
 ジト目で見たが、椿はニヤニヤ笑ったままだった。
「そりゃわかってるけど。でもさ、ちっひーの口から、ちゃんと聞きたいじゃん」
「もう……」
 ため息をついて、チラッと璃々、純子の二人を見る。二人とも興味津々の顔。特に璃々は、睨むような、思い詰めた表情をしていた。
「璃々ちゃん。どうかした?」
「……私のことはいいから。話を聞かせて」
 発せられたのは、不気味なほどに平坦な声。
「え、あ、うん」
 それに戸惑いつつも、千尋は亮祐との馴れ初めを話した。
 出会い、好きになったこと、ラブレター事件の謝罪から告白、期間限定で付き合うようになったこと……。それらをゆっくりと、時に恥ずかしさで真っ赤になりながらも、千尋は全て話した。
「ほうほう、なるほどね〜。そんなことになってたわけか。しかし、期間限定か……。毎日が勝負だね、コリャ」
「うん……。だから、少しでも好きになってもらおうとお弁当作ってるの」
「オーソドックスだけど、いい手よね。女の子の手作り弁当って、古今東西男の子を落とす、スペシャルアイテムだものね」
「やっぱりそうだよね。うん、よおし。これからも頑張って作んなきゃ!」
 うん、と握り拳を作って、改めて気合を入れると、二人の親友は、「頑張れー」「応援してるよ」と励ましの言葉をくれた。
 しかし――最後の一人は、不機嫌極まりない表情でこちらを見ていた。

〜合縁奇縁のミルフィーユ〜
22話 応援と否定

「あの……。璃々ちゃん?」
 不機嫌なのは先ほどからだが、その原因は何なのか。
 内心ではわかっているつもりだが、それでもと思い、訊ねてみる。
「私が長塚君を好きなのが、そんなに嫌?」
「……ええ。嫌よ。これ以上ないくらいに」
 あっさり、璃々は肯定した。しかも平然と。
「何で嫌なの? 長塚君がオタクだから?」
 それだけのことで、自分の想いは否定されてしまうのか。
「それが一番の理由だけれども。それがなくても、あんな奴と小笠原さんが付き合うというのが許せないのよ」
「え? どういうこと?」
 千尋は璃々の真意を計りかね、首を傾げた。
 意味がわからない。
「長塚亮祐。顔だって大したことないし、背だって高くない。成績も中の中程度。そんなレベルの男が小笠原さんと付き合うというのが腹立たしいの」
「璃々ちゃん……」
 千尋ははぁ、とため息をついた。璃々が嫌がる理由とは、外見に現れる程度のことなのか。
 内面がどうということではなく、容姿とか身長、学校の成績で判断しただけのこと。
 そしてこれには椿や純子も同じような感想を持ったらしく、やれやれと首を振っていた。
「ねえ、璃々。あんたさ、それはどうかと思うよ」
「……どういう意味よ」
「顔の良し悪しも背の高さもさ、確かに男を判断する上での要素なのはもちろん認めるけど。それだけで付き合ったりはしないでしょうが。ま、する子はするけど。でも、ちっひーがそういう外見だけで男と付き合ったりする子じゃないってのは、あんたもよく知ってるでしょ? それを否定するってことは、ちっひーの価値判断も否定することになるよ?」
「小笠原さんだって人の子よ。判断を間違うことだっておあるでしょっ」
 険を含んだ璃々の反論に、椿は大きく肩をすくめた。
「そりゃあるでしょ。でも、今回が間違っているなんて誰にも言えないでしょうよ」
「言えるわよ。だって、オタクよ!? オタクなのよ!? いいの、そんなのと小笠原さんが付き合っても!?」
「それは人の好き好きだしさあ」
 椿が言いながら、チラッと千尋を見た。千尋はうんと頷いて、椿の意見に賛同の意を示した。
「外野がとやかく言うことじゃないわね」
 純子も同意見を示す。
「……!? 何を言ってるのよ! 椿たちだって長塚を懲らしめることに参加してたでしょ? それが何で二人が付き合うことに賛成してるのよ!?」
 璃々が信じられないという表情で二人を睨みつける。
 それは確かに千尋も不思議だった。つい先日までは罪悪感などカケラも感じていなかったはずの二人が、今日は千尋の恋を応援しようとしているのだから。
 何か、心境の変化をもたらすことがあったのかもしれない。
 そうだとするなら――嬉しかった。自分の恋を応援してくれる友人がいることが。
 この上もなく、嬉しかった。


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