「というわけで、今度の日曜日に南雲さんちで勉強会をやることになったので、お前も参加するように」
「……マジかい」
「マジもマジ。拒否は認めないのであしからず」
「わあったよ、参加するよ」
 諦めたように肩をすくめる英治に、亮祐はよしと頷いた。
「んじゃ、そういうことで。待ち合わせ場所とかはまた後でな」
「ああ」

〜合縁奇縁のミルフィーユ〜
2話 どたばた勉強会 序

日に日に眉間の皺が深くなる璃々を千尋が慰めたり、椿がからかったりしつつ時は過ぎ。
勉強会の日はやってきた。

「〜♪ 〜♪ 楽しみだな、楽しみだな、勉強会〜♪」
 当然のごとく待ち合わせをした亮祐と千尋は、英治も連れ、璃々の家に向かっていた。
「はしゃぐね、千尋。そんなに楽しみ?」
 即興の歌を歌う千尋を見つつ、亮祐は苦笑を禁じえなかった。
「え? それはそうだよ。だって、こんな勉強会なんて初めてだもん。亮祐君は、楽しみじゃないの?」
「ま、楽しそうではある。みんなでワイワイやりながら勉強ってのも、面白そうだし」
「でしょ? 何度か璃々ちゃんたちとはやって楽しかったけど、今回はもっと楽しくなるよね、絶対」
「お? 断言するとは強気ですな」
 すると千尋は当たり前だとばかりに大きく頷き。
「だって」
「だって?」
「今日は亮祐君がいるもんっ」
 そう、きっぱりと言い切った。
「…………」
 恥ずかしさで思わず顔を手で覆った。
「えへへ。私もちょっと恥ずかしいけど……。でも、ホントのことだもんね」
 はにかみながら亮祐を見上げてくる千尋が心底可愛く思え、亮祐は優しくその髪を撫でた。
「えへ」
「ははは」
 二人で微笑み合った時、ぼそりと声が響いた。
「……俺がいるってことを忘れてねえ?」
 暗い、鬱々とした声。
 それは紛れもない、英治の声。
「え、あ、そんなことはないぞ英治?」
「そ、そうだよ、そうだよ。高見沢君を忘れるなんてありっこないよ!」
 亮祐と千尋は慌てて取り繕うが、英治は胡乱な眼を向けたままため息をついた。
「仲がいいのはいいけどよぉ。独り身がすぐそばにいるってことも忘れないでくれや」
「わ、悪い……」
「ごめんなさい……」
 英治の言うことはもっともでもあるため、二人は素直に謝った。
「有無、よろしい。……で、南雲の家はまだ?」
 大仰に頷き、英治は区切りのつもりなのだろう、話題を変えた。
「あ、うん。もう少しだよ。……あ、ほら、見えてきた。あのお家だよ」
「ふーん、あれが南雲の野郎のい……え……?」
「うそぉ……」
 千尋が指差すほうへ視線を向けた亮祐と英治はあんぐりと口をあけた。
 そこにあったのは――大豪邸。
「城……」
「えーと。ナニコレ」
「ナニコレって。璃々ちゃん家だけど……」
 千尋が亮祐と英治の言葉に戸惑ったように呟いてくる。
 しかし、亮祐は眼前の豪邸に目を奪われたままだった。
 強大な鉄扉。
 そこから延びる小道の奥に聳える洋館。10メートル以上はあるだろうか。
 脇には左ハンドルの車が見える。
 左右には緑の風景――というか森。
 その上、敷地の奥が霞んで見えないというオマケ付き。
 どこからどう見ても、まごうことなき大豪邸だった。
「南雲さんって……金持ちだったのね……」
「予想外すぎる……」
 普通の家の子だと思っていたら、豪邸に住まうお人だった
「あは。私も知ったときはびっくりしちゃったけどね。でも、璃々ちゃんは璃々ちゃんだよ?」
 千尋が苦笑しつつ、ごんがいに釘を刺してくる。
「わかってるよ」
「もちろんだ。南雲は南雲だ。あのむかつく南雲だ」
「……高見沢君、一言多いよ……」
 やれやれとため息をつくが、千尋は気を取り直したように門扉の脇についているインターフォンを押した。
 ややあって、声が聞こえてきた。
『はい』
「璃々さんと同じクラスの小笠原千尋といいます。璃々さんはご在宅で――」
『あ、小笠原さん? 今開けるからどうぞ。もうみんな来てるわよ』
「うん」
 どうやら、応答したのは璃々本人らしく、すぐに門扉が音を立てて開き始めた。
「すげぇな」
「ああ」
 アニメや漫画でしかお目にかかったことがないレベルの現状。
「さ、行こ。椿ちゃんたちはもう来てるって」
「ああ」
 この大豪邸で行われる勉強会。
 一体どんなことになるのやら。
 亮祐は思わずため息をついたのだった。


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