午前十一時、秋葉原。
 亮祐はJRの改札口で、千尋を待っていた。
「そろそろ来るかな」
 腕時計に目をやり、待ち合わせの時間が来るころだと確認して、改札へと目を向けた。
 ちょうど電車が着いたらしく、ぞろぞろと人が出てくる。さすが日曜日、その数は半端ではない。
「んー。小笠原さんはっと。……あ、いた」
 小走りにこっちへやってくる千尋の姿を認め、亮祐は軽く手を上げた。
「ごめん、長塚君。少し遅れた?」
「平気平気。遅れたうちにゃ入らないって」
 軽く答えながら、亮祐は千尋を見て眉を上げた。
 キャミソールをインナーに、オフショルダーシャツを重ね着し、ミニジャケットを羽織っている。下は膝丈のプリーツスカートにショートブーツを履いていた。
「……物凄く気合が入ってるように思うのは、俺の気のせいですか?」
 思わず訊ねると、嬉しそうな顔が返ってきた。
「あ、わかってくれた? えへへ。何と言ってもデートだもん。頑張っちゃった♪」
「……そんな大層なもんじゃないし。俺の格好見たってわかるだろうに」
 亮祐は自身の服装を見下ろした。
 ロゴ入りのTシャツに半袖シャツを羽織り、ジーンズにスニーカー。どこにでもいるような格好である。
「え〜? そんなことないよ。男女で遊びに出かけたらそれはもうデート。だから、これも立派なデートなの」
「そんなもんですか」
「そんなもんなの」
 半ば諦めの気持ちで呟くと、千尋は意を得たりとばかりに小さく胸を張った。
「了解了解。んじゃ行くか」
「うん」
 促して歩き出すと、そこかしこから話し声が耳に入ってくる。
(誰だ、あの子……?)
(ムチャクチャ可愛いんだけど!?)
(アイドルか? 隣の男はナニモンよ!?)
 痛いくらいに視線が集中し、注目を集めているのが嫌でも感じ取れる。
「あの、長塚君……」
「この視線か?」
「うん。何だか私たち、注目を浴びてる気がするの。ちょっと怖いんだけど、気のせい?」
 やはり千尋も感じていたらしく、不安げな表情で見上げてくる。
「気のせいじゃないな。みんな見てるよ、俺たちを」
 正確には千尋を、であるが。
「な、何で!?」
「小笠原さんが注目を集めてるんだけどね。自覚ない?」
「私が? え?」
 全くわかってない目で問いかけてる千尋に、亮祐はやれやれと肩をすくめた。
「……気にしなくていいや。ほら、ここにいるといつまでも噂されるから、もう行くよ」
「あ、う、うん!」
 亮祐はさっさと歩き出し、千尋が慌てて追ってきた。
「もう、待ってよ、長塚君。歩くの私に合わせてくれると嬉しいんだけどな」
「お、悪い。――こんなもんでいい?」
 背の高さも違えば元々の歩くスピードも違うので、亮祐に合わせようとすると千尋が大変な思いをする羽目に陥ることになる。
 まさか、それでも自分に合わせろなどとは言っていいわけもなく、亮祐は歩く速度を落とした。
「うん、それで大丈夫。ありがと。それで、どこに行くの?」
 ピッタリと亮祐の隣を歩きながら、千尋が訊ねてきた。
「取り敢えずゲームの予約だな。元々そのために来たんだし」
「ゲームの予約?」
「そ。あそこで」
 亮祐が指差したのは、七階建ての家電量販店だった。

〜合縁奇縁のミルフィーユ〜
14話 オタク×美少女=デート?

「おっきなとこね」
「ああ、今一番元気があるところかな」
 亮祐の言う通り、店のユニフォームを着た店員が二人、入り口と道路上でプラカードを持って大声で呼び込みをしている。
『本日、500GBのHDDが特価の……』
『どうぞお入りください。商品はどれも多数揃えております……』
 拡声器まで使い、道往く人を一人でも呼び込もうとしてる。
「そういうわけで、入るよ」
「うん。ゲームの売り場って何階なの?」
「七階。エレベーターで行こう。乗り場はいっちゃん奥だから」
 携帯電話売り場を抜け、奥に二基設置されている片方に乗り込む。
 間もなく七階に着き、広いフロアを通って、ゲームの予約コーナーへ向かう。
「ここが予約コーナー。えーと、タイトルのところに置いてあるこの予約票をレジに持っていって、内金払って予約終了&完了。簡単だろ?」
「それだけ? 名前とかは?」
「この店の会員証持ってりゃ必要ない。俺も勿論持ってるし」
 持っていなければ、予約票に氏名と電話番号を記入する必要があるが。
「へえ。……それにしても沢山あるねえ。どれを予約するの?」
 感心したように壁に掲げられたタイトルたちを眺めながら、千尋はこちらを振り返った。
「えっと、これはとにかく絶対に。あと……これはどうするかなあ」
 躊躇うことなく一枚を抜き取り、もう一枚を摘まんでヒラヒラと動かす。
「すればいいじゃない、予約」
 あっさり言う千尋に、亮祐は天を仰いだ。
「それができれば苦労はないって」
「?」
「俺、高校生なんですけどね。小笠原さん、それ分かってます?」
「もちろんだよぉ。私だってそうだもん」
 不思議そうな顔をして、美少女は首をかしげた。
「一ヶ月の小遣いをやりくりして何とかゲームを買ってるんだけど。その意味、わかる?」
 もしも千尋の小遣いがひと月『数万円』とかだったら話にならないが。
 だが幸い、そんなことはなかったらしい。
「……あっ! そっか、お小遣い……」
 理解してくれたようで、千尋はばつが悪そうに困った顔になった。
「ごめん、私お金のことか考えてなかった」
「わかってくれればそれでいいさ」
 亮祐は予約票をレジへ持っていき、内金を払って予約を終えた。
「ちょっと回ってみるけど、どうする?」
「もちろん付き合う。どんなゲームがあるか知りたいから」
 提案に千尋は快諾し、二人はゲームフロアを回り始めた。


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