「亮祐君、おはよー」
 振り返れば、小走りに向かってくる可愛い彼女の姿。
「おはよ」
 待った? いや、待ってない、という定番の遣り取りをしてから、お互いに頭を下げた。
「明けましておめでとう。今年もよろしく、千尋」
「明けましておめでとうございます、亮祐君」
 一月三日、駅前での待ち合わせ。
 そう、今日は二人で初詣に行くことになっている――。

〜合縁奇縁のミルフィーユ〜
 お正月! 巫女さんっていいよね!

 駅を二つばかり行った場所にある神社。
 規模は大きく、縁結び、家内安全、心願成就など、ご利益も大きい神社として有名だった。
 その分人出も多く、だいぶ混雑していたが。
「人多いなー、やっぱ。三が日は外しておくべきだったかな」
「仕方ないよー。お参りは三が日にしたかったんだし。それに……」
「それに?」
 首を傾げると、千尋は恥ずかしそうに、はにかんだ。
「一日でも早く、亮祐君に会いたかったんだもん……」
「――! そ、そうなんだ……。う、うん」
「えへへ……」
 さすがに『一日でも早く会いたかった』なんて言われると恥ずかしく、照れ臭くなって顔を背けた。
「あ。もう顔逸らさないでよ。失礼しちゃうな。こっちにはこーんなに可愛い彼女の顔があるのに?」
「無理言うな……」
「だーめ。はい、こっち向いて?」
「ぬお」
 頬を両手で挟まれ、半ば強引に千尋へ向けさせられた。
 千尋は亮祐と目が合うと、ニッコリと嬉しそうに微笑んだ。
「亮祐君はちゃあんと私を見つめていてね? 他の女の子のところに行っちゃヤだからね?」
「そんなことしないって。俺が好きなのは、千尋、君です」
 苦笑交じりに告げると、千尋の頬にわずかに赤みが差した。
「嬉しいな。うん、本当に嬉しい」
 頬から手を離し、今度はこちらへと右手を差し出してきた。
「……? ああ、そういうこと」
 それが何を意味しているのかすぐにはわからなかったが――。
 左手でその手を握ると、優しく握り返してきて、満足そうに頷いた。
「うんっ。じゃあ、行こ?」
「ああ」
 亮祐も頷いて、仲良く鳥居を潜った。

 中に入り――すぐに参拝できるかと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。
 本殿までの参道には行列ができており、本殿は遥か先に屋根が申し訳程度に見えているだけだった。
 やはり人気の神社、それも三が日の最終日とあっては人出も多いようである。
「凄い人……」
「こりゃあ、お参りするまで時間かかるなー」
 先に御神籤とか引きに行く? と訊いてみたが、千尋は首を横に振った。
「先にお参り! これは譲れない」
 がんとして聞かなかったので、大人しく並ぶ。
 天気は良いとはいえ、真冬真っ只中にじっと並んでいるのは少々キツイものがある。
 しかし、それと反比例するように繋いだ手からは暖かさしか感じない。
「えへへ。あったかいね、手」
「ああ。他はすげえ寒いのに」
「うんっ。〜♪ 〜♪」
 手をしっかりと繋げているからか、上機嫌の千尋は鼻歌まで歌いだした。
「……嬉しそうだな」
「嬉しいよ? こうして手を繋いで一緒にお参りできて、御神籤も引けて……。たくさん一緒に過ごせるんだもん。嬉しくなるなっていうほうが無理でしょ?」
「そういうもん?」
「そういうものだよ。まさか、亮祐君は私と一緒で嬉しくもなんともないの……?」
 不満げな顔で唇を尖らせる千尋。
 その仕草が可愛く思え、空いた右手で頭を撫でると千尋も嬉しそうに目を細めた。
「そんな馬鹿なことあるわけないって」
 千尋のような素敵な彼女と一緒に過ごせる自分はとんでもない果報者だ。文句などあるわけもない。
「なら良かった。……あ、もうお参りできそうだよ」
「お、ホントだ」
 視線を前方に向ければ、本殿がすぐそこに迫っていた。
「では、心からお願いして神様に聞いてもらおうか」
「うん。――私たちがいつまでも一緒にいられるようにってね?」
 さらっと言ってのける可愛い彼女に、亮祐は敵わないとばかりに肩をすくめるしかなかった。


INDEXNEXT
創作小説の間に戻る
TOPに戻る